「とろっち」さんのページ

総レビュー数: 300レビュー(全て表示) 最終投稿: 2009年10月09日

7点 恋風

それぞれ顔も知らずにずっと離れて暮らし、十数年ぶりに再開した兄と妹が、互いに惹かれ合っていく、
実の兄と妹の純愛物語。

少女漫画ではたまにあるみたいですが、青年漫画では珍しいテーマ。
コメディにもエロにもファンタジーなんかにも安易に逃げずに、本気の恋愛を描いています。
だからこそ現実は厳しく、そして切ない。

「ずっと、仲のいい兄妹でいられたらいいね……」

兄は大人の男性であり、自分が抱えている想いを「常識的」「社会的」な観点から見つめ直し、
後ろめたい気持ちになり、罪悪感に苛まれ、葛藤を繰り返します。
「気楽なもんだな。 こっちの気も知らないで」
可愛く思えるのは、妹だからだ、と無理やり結論付けたりして。
一方で、妹は高校生の女の子。 自分の気持ちに気付いてしまってからは、それを真摯に受け止め、
真っ直ぐ健気に行動します。
「私は自分の気持ちに正直に生きたい」
そういう二人の気持ちのブレ、差異、対比がこの作品の一つの見どころになっています。

「どうして兄妹は好きになっちゃいけないのかな」

禁忌のテーマを扱っていながら、全体的に色鮮やかで瑞々しく、透明感溢れるような印象の作品。
漫画という媒体で描かれてはいますが、何だか純文学にも似通った読後感を抱かせてくれます。
それほど重くもなく、ドロドロしておらず、長くない巻数で読みやすい作風の良作です。

ただし、きれいなものに仕上げたかったという作者の強い意図もあからさまに伝わってきます。
桜吹雪とか降雪が要所要所であざとく使われていたとか、妹が作為的なまでにいい子だったりとか。
せっかく兄貴が人間臭くていいキャラなのに。
あと、最終巻からラストへの展開はかなり好みが分かれるかもしれませんね。

ナイスレビュー: 2

[投稿:2011-03-31 01:06:58] [修正:2011-03-31 01:06:58] [このレビューのURL]

少女漫画の1つの頂点であり到達点。

幽霊になった男。 夢の中で出会った少女。
夢に囚われた青年が、無限の時空を航行するがごとく、現と虚とを行き来する。
自分が少女の夢を見ているのか、それとも自分は少女が見ている夢の登場人物にすぎないのか。
どこまでが夢なのか。 どちらの世界が現で、どちらが虚なのか。
現と虚。 ただし彼にとってそれはさほど大したことではないのかもしれない。

透明感のある水彩画のようなモノクロページと、異常な程の質感を表現した油絵のようなカラーページ。
耽美的とも思えてしまう驚異的な筆致がミステリアスなストーリーと溶け合って生まれた夢幻の世界。

これぞまさに芸術の域。


これは本来なら文句無しに10点をつけるべき作品なんだろうなと思わされます。
そのぐらいにこの作品のレベルは凡百の作品と比べて突出しています。
主人公の内省とその考証が作品の核ですが、ほぼそれだけでこれほどの作品ができるとは。
作者の構想力と自己表現力が恐ろしく優れているのでしょう。 手放しで賞賛せざるを得ないです。

しかしながら苦渋の選択で9点に留めました。
なぜかと言えば、漫画においてもう1つ大切なこと、「読み手に伝える」という観点において、
残念ながらこの作品にはそれが欠けている(或いは最初から度外視している)と感じてしまったので。
その部分で-1。 もう好みの問題だと思ってください。 この作品が圧倒的に凄いことは断言できます。

思えば、この作者は唯一無二の作り手ではあるものの、それと同じレベルの語り手にまでは
なり得なかったということなのかもしれません。
それもまた往々にして芸術なる哉。 真の芸術は理解の高みにあるということなのでしょうか。

ナイスレビュー: 2

[投稿:2011-01-25 00:56:51] [修正:2011-01-25 01:16:12] [このレビューのURL]

ドラクエが好きな方、特にファミコン時代から慣れ親しんでいるような方には必読の一冊。

ゲーム黎明期。 後にドラクエのプロデューサーとなる千田幸信が、堀井雄二、中村光一という
2つの輝く才能と出会い、今や国民的ゲームとも言うべき「ドラゴンクエスト」ができるまでの努力と苦悩、
波乱万丈な道程を、ドキュメンタリータッチで描いた作品です。


当時はアクションやシューティングゲーム全盛期。 まだ日本に一般向けのRPGがなかった時代。
時代の先を読んだ千田氏がドラクエの企画を立ち上げたときも、業界は元より社内での反応すら、
「だってRPGはマニアのゲームだよ!? 売れないんじゃない!?」

運命の糸に導かれるようにして結集した最高のスタッフ (作中では鳥山明の出番が少なめですが)。
しかし日本初の大衆向けRPGの制作はやはりハードルが高く、頭を悩ませ、試行錯誤を繰り返します。
いかにわかりやすく、それでいて面白くできるか。
ドラクエの容量は512キロビット(=64キロバイト)。 今なら写メ一枚分にも満たないぐらい。
容量の都合上カタカナは20文字しか使えず、メイン楽曲も8曲のみ。
それでもあんな凄いものが出来てしまうんですよね。 人間の想像力は無限大です。
ゲームに限らずとも現在では当たり前のように享受しているような物事やアイディアでも、
最初に誰かが考え、創意工夫して作り上げたんだな、と思い知らされます。

もちろんトラブルや揉め事だって起こります。
すぎやまこういち氏の起用を巡る中村光一のトラブル等は有名なところかもしれません。
(実際には千田氏が起用を渋っていたという話もあるみたいですが。)

それもこれも、良いゲームを作ろうという強い思い、こだわりがぶつかり合ったゆえのもの。
「わたしの夢はただひとつ! 世界一のゲームソフトをつくることです!!」
「ぼくは……売る側の都合で、遊んでくれる子供たちの期待を裏切るようなことはしたくありません」
熱いなあ。
数多くの似たようなゲームが氾濫する中で、ドラクエがここまで生き残り、こんなにも成功できた理由。
この漫画を読めばきっとわかります。

そして、ついに完成。
全身全霊で締めの作業に打ち込んだスタッフ陣、そしてそれを見守ったこの漫画の読者をも、
すぎやまこういちが奏でる「広野を行く」(フィールドの曲)が暖かく包み込んで祝福してくれます。


子供の頃に何度となく読み返し、手放して一番後悔したかもしれない作品です。
絶版になるとは思わなかったので…。
先日運良く再度手に入れる機会があり、即購入。 もう手放すことはないでしょう。
改訂版もあるようですが、影の貢献者とも言うべき鳥嶋氏(マシリト)が大人の事情で出てこなかったり、
他にも内容が大幅カットされているらしいので、読むなら是非とも初版本を読んでほしいです。

良いものを作ろうとする熱い気持ち、面白いものを世に広めようとするワクワク感、
そして新しいものを生み出そうとする少年のような夢や冒険心。
そういうものがこの作品にはたっぷり詰まっています。 お薦め。

ナイスレビュー: 2

[投稿:2010-11-29 01:22:34] [修正:2010-11-30 02:19:51] [このレビューのURL]

8点 屍鬼

この作品で一番すごいと思ったのが、「小野不由美のホラー小説を藤崎竜が漫画化する」という発想。
ギャグ色が強くてある意味奇抜な絵柄の藤崎竜は、ホラーにミスマッチ、だと思ったんですけどね。

この作品の漫画としての面白さは、やはりその画力によるところが大きいです。
彼の絵は、造形美が上手いとかそういうのとは違う種類の上手さで、
他の漫画の言葉を借りると、世間一般に言われている上手さの 「斜め上を行く」 上手さ。
ポップでありながらホラー。 彼にしか描けないと思います。

封神演義のときは全体的に白っぽい印象でしたが、今回は黒の使い方が特に秀逸。
展開の都合上どうしても夜の場面が多くなってしまいますが、濃淡を上手く使い、
雰囲気を損なうことなく登場人物を鮮明に描けているのがすごいです。
それにより、原作では文字のみで表現されていた不気味さが視覚的に体感できるようになっています。
小説を漫画化する上での最大の特長ですね。

小説のコミカライズに抵抗のある方もいると思いますが、個人的には面白ければ何でもありです。
小説を書いた人が漫画も自分で描くならまだしも、別の人が介在しているわけで、
全く同じものができるはずもないし、全く同じものを作る必要もないんじゃないかな、と。

この人が絡むとどうしてもコミカルな部分が増えてしまうのは否めないですが、
この作品ではそれが好転しているのではないでしょうか。
重々しく陰惨な雰囲気だった原作が、全く別の雰囲気のホラーに生まれ変わりました。 今後も期待。

ナイスレビュー: 2

[投稿:2010-11-22 00:51:09] [修正:2010-11-22 00:51:49] [このレビューのURL]

人間が壊れていく。 身体も、心も。
「あたしはもうすぐ使いものにならなくなる もっと長くもつかと思ってたけど……意外と早かったなあ」
全身を作り変えるほどの整形手術で美貌を手に入れたトップモデルが、
手術後の激しい後遺症とストレスに悩まされ、蝕まれて、落ちていく様を描いた作品。

平然とした中で進行していく狂気。 ちょっとした歯車のズレ。 少しずつ、確実に忍び寄る崩壊の時。
こういう話を描けば、この作者の感性に勝てる人っていないんじゃないでしょうか。
暗い話でありながら暗さを感じさせず、辛い話でありながら辛さを感じさせず、
痛くないナイフで身体をえぐり取られていくような感覚。

りりこは自分が破滅に向かって歩き続けていることを知っています。
自分が期間限定なのを知っています。

ただ、これを悲劇の話だとは感じませんでした。 むしろりりこの強さに唸らされました。
その強さは、男性では決して持ち得ない、女性ならではの強さ。
限界が目前に迫り、りりこはさらに美しく輝きます。
「りりこがいちばんキレイだったのって、この頃だったかもしんないって思うんです」

そんな中、りりことは違う世界に生きる特別な存在、吉川こずえを出すことで、
りりこという存在がさらに際立って見えてくるから凄いです。
「人間なんて皮一枚剥げば、血と肉の塊なのに」
その皮一枚が本当に若くて美しく、自分への自信が全く揺るがない、吉川こずえ。
そうではなかった、りりこ。

一般人と対極のところにりりこは存在し、あんな風にはなりたくないと思い、
でも一方で、心のどこかで共感、羨望してしまう、そういうものをりりこは持っているのでしょう。

りりこの脆さ、りりこの弱さ、りりこの逞しさ、りりこの美しさ。
りりこの強さ。

誰もりりこにはなれないのかもしれないし、誰でもりりこになり得るのかもしれません。


未完終了ということにはなっていますが、一応の話の決着はついています。
どこか含みを持たせるような終わり方ではあるものの、こういうのもありかな、と思わせてくれます。

タイトルはかの有名な曲から取ったのでしょうが、元々の意味は「すべり台」であり、
「狼狽」「混乱」の意味も併せ持つとのこと。
人間が転げ落ちていく様を表すのにこれほど適した言葉も無いのかもしれませんね。

ナイスレビュー: 2

[投稿:2010-11-04 01:37:32] [修正:2010-11-04 01:37:32] [このレビューのURL]

面白い話を描こう、というよりは、作者が強烈なメッセージを読者にぶつけたいがための
作品のように感じられます。
それでいて漫画としても綺麗にまとまっていて、素直に面白かったです。

読んでいて「痛い」とはそれほど思わなかったですね。
むしろ「痛々しい」という表現の方がしっくりくる感じです。
青木さんが「言葉は暴力」と自ら言うほどの鋭い発言でズバズバ斬ってくれるのが爽快だったり。
部員にもっと自己投影した方がよかったのかもしれないですが、登場人物になりきるだけが
漫画の読み方じゃないですからね。 まぁ性格悪い読み方かもしれません。


この作品に対するレビューは素晴らしいものが多くて、ちょっと気後れしてしまいますが、
以上、ここまでがこの作品の感想文でした。
確かに天原君なんかは悪例極まりないですが、一般人レベルで考えると、個人的には別に
感想文じみたものでもいいと思うんですよ。
プロの批評家がしかるべき場で読書感想文なんか披露したら、もうその人に仕事は来ないでしょうが、
我々はプロの批評家ではないのだし(と言うと無責任な逃げの発言になってしまいますけど)、
このサイトのレビューなどでもそうですが、「好きなものを読んで好きだと表現すること」 の敷居を
高くしたくないなあ、と思います。

でも必ず心に留めておきたいのが、自分の発言を聞いてくれる人に、文章を見てくれる人に、
そして何よりその作品に対して、敬意を表すること、ですね。
特に悪い評価を下すときは要注意。 褒めるよりも、けなす方が簡単なんですよね。
青木さんが言うように、作品を叩くことで「自己顕示欲」を発揮するだけのものは特に。
悪い部分ばかりを指摘したものは何となく本質を捉えているように錯覚しがちですが、
それは単なる批判であって、批評ではないのですから。

天原くんの非は、「批評と感想との区別がついていないこと」にあるのではなく、
「作品への愛情がない」ことと、「自分の意見を相手に押し付ける」ことにあると思っています。


さてこの作品、タイトルからして皮肉たっぷりですが、ただ切り捨て御免で終わるのではなく、
読者にとって希望も持たせてくれるところがちょっとばかり心憎いです。

「一所懸命は、悪くないよね? いいよ!」
「夢はつぶれたり、消えたりするものじゃなくて、ただ、形を変えるだけなんです。
16歳の青木杏さんの、今の夢は…?」

読み終わった後、つい自問自答したくなりました。

見たくないものもちゃんと見えているか? 聞きたくないこともちゃんと聞こえているか?
気付かないうちに自分に都合よく事実を歪めることはしてない……よな?

ナイスレビュー: 2

[投稿:2010-09-01 00:55:25] [修正:2010-09-01 01:19:26] [このレビューのURL]

「その頃わたしはなんにも知らなくて 思えば しあわせだった」
「もう、子供の時のわたし達には会えないわ!!」
「333ノ テッペンカラ トビウツレ」
「ボクハ イマモ キミヲ アイシテ イマス」
「人間デス。」
「わたしは 三角に なった」 「わたしは マルに なった」
「これは……子どもの終わる音よ!!」
「ワタシハ イマモ アナタガ スキデス」
「そして あとに アイだけが 残った」

この作品について多くは語りません。と言うより語れません。
いや喋ることはいっぱいありすぎるのですが、まともなレビューにはなりそうもないです。
それほどまでに違う次元で構築された作品。
読んでみて下さい。 考えてみて下さい。 感じてみて下さい。
物語とはまた別の狂気を演出する扉絵も含め、とにかく「凄い」作品であることは間違いないです。
あとは読む人がどこまで受け入れるかだけ。

「これが、わたしの生まれてきた目的だったのだ!!」
わたしは真悟。 真実を、悟るもの。 真の愛を、悟るもの。

ナイスレビュー: 2

[投稿:2010-06-30 20:56:51] [修正:2010-06-30 21:05:39] [このレビューのURL]

グダグダ、ズルズル、ダラダラ、ウダウダ、モヤモヤ。そんな作品。

この作品の本質を、思春期だから、反抗期だから、なんていう逃げの言葉で片付けたくない。
ダメなのは、主人公がダメだから。登場人物たちがダメだから。
でも現実では誰だって似たようなもんです。
完璧に生きていて、何かあったら自分が世界を救います、なんて人、いないですよね。
ダメなところがあって何が悪い、っていう人間臭いドラマです。そんなドラマだからこそ心地良くもあり。

そんなダメっぷりにそれほどの不快感を抱かない不思議な作風。面白いと断言できないような面白さ。
グダグダでも、登場人物に全く共感できなくても、作中で特に大きな山場がなくても、
それでも読み続けてしまった作品です。それだけの力がこの作品にはあるのかもしれません。

堂々巡りをしているようでも、前半の荒廃したダメダメさに比べて、後半はまだ潤いのあるダメダメさ。
登場人物もそれなりに成長してるのかな、という印象。
まあ成長を求める話ではないので、そこはどうでもいいんですけどね。

レビューもグダグダになってしまってごめんなさい。

ナイスレビュー: 2

[投稿:2010-05-17 22:27:33] [修正:2010-05-17 22:27:33] [このレビューのURL]

はじめの一歩。

一体いま何歩目ぐらいなんでしょうか…。        
               

ナイスレビュー: 2

[投稿:2010-04-25 00:40:49] [修正:2010-04-25 00:46:05] [このレビューのURL]

読んでいて温度がはっきりと感じられる作品。
寒暖が入り混じり、その温度差が強く印象的です。

将棋での勝負は、研ぎ澄まされ、冷たく凍てついた世界。
そしてその凍りついた心を優しく温かく溶かしてくれるあかりたち3姉妹。

冷たさと、温かさと。 寒くて、暖かくて。
まるで3月のように。

温もりに慣れていない主人公が本能的に温かさから逃げていく様が、なんとも切なくもどかしいです。
その温かさに身を委ねることは決して悪いことではないのに。

ナイスレビュー: 2

[投稿:2010-03-15 22:27:26] [修正:2010-03-15 22:27:26] [このレビューのURL]