「ジブリ好き!」さんのページ

総レビュー数: 343レビュー(全て表示) 最終投稿: 2009年12月10日

大学の図書館にあったくらいだから、高い評価を受けた作品なんだろうし、浅野いにおが比べられてしまうのもわかる。
彼の綺麗で作り込まれた画とは対照的なPOPでゆるーい画
ならば内容は、浅野氏が深く重々しく、岡崎氏が浅く軽快になるべきだろうが、そこでは逆転現象が起こっている。

とはいえ浅野作品はその「軽さ」が魅力であると思っているし、RIVER'S EDGEが底知れない深みのある作品だとも思えない。
多用される(主に主人公ハルナの)モノローグの中に深みを感じる言葉があったかと思えば、すぐに否定しだすし、親しみを持ちやすいのはハルナだけで後は皆少々狂い過ぎている。
それに「ソラニン」と比べるのなら、この作品にはあまりに希望も救いも無さすぎる…


だがそれが良い

ハルナが悟ったようなことを言えないのは、彼女が若者だからであり、
吉川さんと山田くんが達観してるのは、二人が狂った人間で、それでいて「平坦な戦場で生き延び」ているからだ。
希望も救いもないのは、この作品がよく起きる「惨劇」の話だからだ。
アホな日常、たいくつな毎日のさなかに、それは、風船がぱちんとはじけるように起こる。
それでも僕らは、何かをかくすためにえんえんとお喋りをする。

その街の河の端(リバーズ・エッジ)には、狂気と明日が、流れ着く。

ナイスレビュー: 1

[投稿:2010-10-18 03:18:50] [修正:2010-11-15 03:23:06] [このレビューのURL]

序盤から最後まで衝撃的な作品でした。
ムチャクチャな展開ばかりですが、冒頭の家庭に関する引用とラストの父の最期が繋がっていると感じ、作品を通して伝えたいことが少しは理解できた気がします。
ただ、お父さんの「ありがとう」の言葉の想いは、まだ子供側である自分には100%の理解はできていません。
そのため、思春期まっさかりで反抗的な貴子にひどく共感できました。
自分も父親や家族に対する苛立ちや距離感を感じているから、言いたいこと言ってくれてたと思います。大学生にもなってそんな風に感じてしまっているのは長すぎる思春期で問題あるかもしれませんが、家族への嫌悪感は誰でも一度は感じるものではないでしょうか。
この漫画のような単身赴任で距離が開き、無責任で空回りした父親ってほど過度なシチュエーションではなくとも、親や家族に対して綺麗な想いだけで過ごしてきた人は少ないと思います。

同時に、家族の絆を取り戻そうと頑張っていながらも空回りな結果となってしまうお父さんもまた印象的でした。
解散、という結論は非常に効果的でナイスアイデアだと思います。
独り暮らしして初めて親のありがたみが分かる、なんて言われるけど、大学に入って1年独り暮らしして、また家族で暮らしてみてじゃあ以前より感謝の思いが強まったかと言われれば、何とも言えません。
でも「オヤジは相変わらずうるさかったが、そのうるささも気にならないほどだった」というのは凄いわかる。それがオヤジの変化なのか自分の変化なのかはわからないけど、たぶんそれは「家族」に対する理解が深まったということなのだろうな、と思います。

不良が出てくる序盤は読んでて非常に心苦しいけど、後半のエセ宗教やいじめは落ち着いて読めました。
記号的なキャラが多く、家族以外のキャラは役割付けられているのですが、カクマだけは結構掘り下げて描かれているのが嫌でした。
最初の展開(強姦、暴力、崩壊した家族、犬殺し)は本当に強烈で容赦がないけれど、エロ描写に関しては18禁の同人やアダルト漫画の追随を許さない過激さや情熱がこもっていて、芸術とまで評されるのもなんだかわかる気がします。

ナイスレビュー: 1

[投稿:2010-11-07 15:47:25] [修正:2010-11-07 15:47:25] [このレビューのURL]

凄い。

物語は全てラストのために描かれるのだが、その過程も丁寧で面白く仕上げられている。
そして迎える激動のラスト…

似たラストの作品を挙げるなら、古くは「ナウシカ」や「地球へ…」など。
最近のSFやセカイ系にも似たようなものが挙げられる(というか最近のものはこれらの影響を受けているので当然っすよね)。
なので作品の古さを特別視しないならば、単に「SFらしいラスト」で括られてしまうかも。だが、この作品の凄さはそこ(だけ)じゃない。
神のデザイン、表現の素晴らしさ・美しさ、敵味方問わず魅力的なキャラの数々…それらも備品にすぎない。

この作品の凄さ、それは物語を通して導き出されたその「結論」
‐神は「必要とされない」存在になったこと‐

宗教や信仰をテーマに入れながら、結果的に神は必要ないと結論付けてしまった!神殺しの作品はあれど、神を捨てる作品はそうそうないだろう。
ましてこれほどのクオリティと説得力をもってそれを描いた作品はこれ以外ない!まさに、今となっては宗教への関心薄く、特定の宗派に属さない人の多い日本だからこそ許された結論だ(欧米やイスラム圏じゃ…)。

救いは人それぞれ異なり、それは時に善であり、時に悪である。永遠の平穏が約束された理想郷では決して癒せぬ傷もある。
善だけが、悪だけが人の姿なのではない。人間とは「進化する反調和」だ!

こうした結論がかなりの説得力をもって描かれていることが凄い。
善なる透祜と殺戮に快楽を感じてきた夭祜が一つになるシーン
平和を尊ぶ亞神の味方をしてきた鷹野が、平和の楽園を築いた亞神の天音を斬り消すシーン
決して剣を取らなかった青比古が、一狼太を殺すことで救うシーン
敵も味方も誰も彼もが血にまみれ辿りついた結論。

凄い。

ナイスレビュー: 1

[投稿:2010-08-11 00:03:55] [修正:2010-08-18 15:26:35] [このレビューのURL]

巻を重ねる毎に面白くなる親バカ漫画

過保護ならぬ過「かわいい子には旅をさせよ」
究極のツンツン親父がスパルタ的にダメダメイジイジな主人公の息子の成長を見守るというのが本筋。ストーリー自体はサバ読みまくりのトップアイドルな父親の芸能活動を中心に、そのせいで苦労の耐えない息子が行動を起こしたり事件に巻き込まれたり。
1巻に1つか2つのエピソードを収録していて、そんなストーリーを追うだけでも十分楽しめる。結構過激なエピソードも多いが、締め方は「ちょっと良い話」

とにかく主人公がウジウジでEVAのシンジを彷彿とさせられ、序盤はイラつくかも。でもタイトル通りだんだんアクティブに、自身をもって行動するようになっていくので見守ってやりましょう。特に4巻は良かったです。

恋愛も、主人公と女優としてパッとしないアイドル・泉志穂のすれ違う両想い、しっかり向き合った後も芸能界特有の嫉妬や女の怖さなど受難多い展開と鉄板。

線の細い、一見味気ない画だが、内容はしっかり楽しませてくれる漫画です。

ナイスレビュー: 1

[投稿:2010-08-18 15:23:12] [修正:2010-08-18 15:23:12] [このレビューのURL]

勝利の際に大喜びするでもなく、ひたすら淡々と進んでいく野球漫画。
かといってテンポが速いかといえばむしろ遅い。試合に3巻以上かけるのは当たり前。また日常的な部分もかなり丁寧に描いている。

それでも個人的に面白いと思うのは、従来の野球漫画のような暑苦しさがないからだと思う。勝っても騒がない淡々としたテンポや、女性作者の画、恋愛のないストーリーに、主人公の武器が速球ではなくコントロールとスローボールという珍しい設定が、一切の暑苦しさを排除してくれているのだ。
高校野球らしい戦略野球、スモールベースボールを女性作家がここまで描いているのは凄すぎる。

主要キャラ以外のキャラが薄く、ピッチャーキャッチャー田島(4番)くらいしか感情移入できないのが難点かもしれない。でもそれも巻を重ねるごとに徐々に解消されつつある。

くよくよな主人公と強引な捕手、2人の極端な性格は葛藤と成長の材料。
二人が心を通わせ、真のバッテリーになるまで、長い目で見守ろうという心持でないと、この作品は辛いかも。

(2010年7月、最新15巻読了につき更新)
リアル志向のくせに綺麗すぎるという意見があります。
全くもってその通り、確かにたばこなし、反抗なしで綺麗すぎる。15巻では特に顕著。

でもそこが良いんです。

青春全部つぎ込んで、生活全部野球に捧げて、真っ直ぐで素直でモチベーション高く、親の理解・協力も万全。
こんなチーム、マジであったら1年だけでも確かに強い。
でもこんなチーム、どこにもあるわけないんすよ。
つまり、この作品、試合や練習法とかはリアル風味に仕立ててるけど、根本部分は漫画らしい「ぶっ飛んだ」設定なんです。
漫画の醍醐味、「虚構だからこそ楽しめる部分」をしっかり残してる。
というかむしろそこから出発させて、ただの超人スポーツ漫画にならないよう理論だった努力を付け加えたら綺麗になりすぎたって感じなのかな。

綺麗すぎて本格派じゃないって言う意見は確かに最もだけれど、じゃあルーキーズが非の打ち所なく満点、ってわけでもないはず。
要するにどちらも漫画らしく一点に突き進んだ作品で、かたや「不良の成長」を、かたや「真っ直ぐで理想的な野球生活」を描いたわけです。
だから個人的には、この漫画にはどこまでも綺麗であり続けてほしい。
それがこの漫画の楽しみ方だから。

ナイスレビュー: 1

[投稿:2009-12-17 23:24:44] [修正:2010-07-12 00:51:16] [このレビューのURL]

9点 BASARA

(2010年7月、読了につき全改変)

名シーン・名台詞がこれでもかと詰まった作品であるから、感動シーンも当然多い。
四道・錵山の最期、朱里と更紗の対面、大仏内で朱里が更紗の手を引くシーン、晒される太郎、そして揚羽…
幾多とある感動場面の中でも、自分は朱里と柊の決闘のシーンでグッときた。
初めから引きこまれっ放しだったが、中盤少し敵が間抜けすぎかなぁと失速しかけていた時、この22巻の対決場面で猛烈に感動。些細なことはもうどうでも良くなった。

最強の暗殺者・柊との一瞬の斬り合い。
たった一太刀で決着がついたこの場面の、何が自分を熱くさせたのか?


スターウォーズという映画がある。
ご存じ、フォースやライトセイバーを利用した、男なら熱くならずにはいられないバトルが魅力の映画だ。個人的には、ネタが銀河鉄道999のパクリだという論に同調しているので、大好きとは言い難いのだが、それでも壮大なストーリーや世界観、そして何よりボス級の敵とのアクションシーンは心躍る。
ライトセイバーで何度も何度も斬り結び、長い時間たっぷりと手に汗握る決闘が繰り広げられる。そう、長い間…
少年漫画の多くもそうで、ラスボスともなれば1回や2回でバトルは終わらない。本当に長いこと激戦を繰り広げる。

それに対してどうだろう、最強の敵・柊とは、たったの一太刀で勝負がつく。バトルが主体ではないとは言え、例えばナウシカだって土鬼皇帝との対決で何度か切り結んでいる。それに比べてこちらはただの一瞬、はたしてスターウォーズ以上の魅力はあるのだろうか?

山田洋次監督の「たそがれ清兵衛」という映画がある。
そのクライマックスシーンで、武士の二人が斬り合う場面がある。
斬り合うと言っても、何度も刀を交えるわけではない。お互い、張りつめた空気の中、間だけを測って動きあう。
そう何度も無意味に刀を振ったりしない。それが命取りになると知っているから。
派手な斬り合いのシーンなんて一つもない。一度でも切られれば致命傷になる。家の中をひたすら動き回り、相手と自分の間合いを測り合い、一瞬の隙を狙う。剣道の有段者の闘いが、動いた一瞬で決着がつくように、一度刀が振りかざされればどちらかが死ぬことを知っている。
その緊張感たるや、見ているこちらにとっても凄まじい。

北野武監督の「座頭市」で、終盤の用心棒とたけしの居合抜きでの決闘のシーン。
目の見えないたけしが構えたのを見て、凄腕の用心棒がより早く抜ける構えをとる。
そこで勝利を確信した用心棒は、思わず笑みを漏らしてしまい…結果、素早く構えを取り直し斬りかかったたけしに敗れる。
ここにも、構えから始まる一太刀の中に、命をかけたやり取りがある。熱い。この一瞬の刹那の中に、互いの想いが、人生が、輝いて消える。そんな様が、何よりも熱い。

西洋の騎士は盾と剣を持つ。盾は相手の攻撃を防ぐためにあり、更には鎧も着る。勝負が一瞬で、一撃で決するより、何度も討ち合う中で決着が付くのだろう。
しかし、日本の武士は、侍は防具一切なくただ刀だけを持つ。
彼らの闘いには、最初から2撃目などないのだ。

一瞬で決まる勝負。
そこにはなんの派手さも、何度も混じり合う剣が奏でる音もない。
沈黙の空気。そして内に秘められた静かで熱い闘志があるのみ。
自分はこんな戦いが好きだ。
スターウォーズのような派手さよりも、少年漫画のような長い長い決闘よりも、この一瞬で輝いて消えゆく戦いが好きだ。何よりも手に汗握り、何よりも熱くさせてくれる。

朱里は鎧を纏っていたからどんな戦いになるか心配だったが、田村由美先生が選んだラストバトルは、ジパング伝説の名にふさわしい、一撃決着の斬り合いだった。一太刀の中の、ほんのわずかな動きも漏らさず描かれていた。
心が燃えるようだった。
その斬り合いにも、その一瞬に込められた朱里の、柊の、今帰仁の想いにも、感動した。浅葱の叫びも心に染みわたり、目頭が熱くなるのを止められなかった…


この漫画は、少年漫画を超えたスケールで描かれた少女漫画として認識されている。別に宇宙どころか外国とも少ししか関わらないけれど、日本全国端から端まで一つ一つに地域にまで及んで描かれた作品はこの漫画以外に私は知らない。だから確かに、少年漫画以上のスケールを持っているのは確かだろう。
しかし、自分にとっては、少年漫画を越えた部分はスケールだけではない。
この熱さ、戦い、想い!
志半ばで散る者、生きて苦しみもがく者、その全てを包み込んでの大団円!
いつまでも色褪せない名作、ここにあり!

ナイスレビュー: 1

[投稿:2010-05-25 01:46:51] [修正:2010-07-07 02:15:57] [このレビューのURL]

今にも昔にもカンニングを題材にした作品にはこれ以外に出会ったことがない。

カンニングを完全犯罪的に行おうという作品ではなく、マックじいの発明品を使って鮮やかにカンニングを行う、ドラえもん的な要素が基本。
しかし、仕込みの準備やカンニング時の緊張感や雰囲気は本格的で、レベルの高い敵ならば心理戦も行われる。(敵は教師だけでなく、クイズ番組や謎の集団、宇宙人など様々だ!)
また、物語の本筋で行われるカンニングは途中でアクシデントが起こることが多く、即席での対処を行うのだが、これが非常に実用的で効果的なカンニング手段なのだ。思いの外、参考になることも多い。
とんでもカンニングだけで終わらせないところが、この漫画の凄さであり魅力でもある。

また、人物の描き分けが非常にうまく、性格・外見とも似たり寄ったりのキャラがいないのが凄い。

しっかりコロコロ読者層を対象としたアイテムやギャグをベースとしながら、大人でも楽しめるコメディやドラマ性、アイデアも散りばめられている。
珍しい題材がブームな今日、古くマイナーな漫画なので日の目を見ることはないだろうが、お薦めしたい一品。

ナイスレビュー: 1

[投稿:2010-06-12 10:14:45] [修正:2010-06-12 10:14:45] [このレビューのURL]

主人公の立ち位置がよくわからん。妖怪退治漫画なの?それなら鬼太郎の方が上だし、戦ってる理由もはっきりしてる。

人間と妖怪王の二重人格って設定を生かす間もなく、あからさまなバトル漫画路線に走り、失敗した気がする。
最近の畏れのバトルシステムもありきたりで、例えば同誌のハンター×ハンターなどに似てるし、何故この土俵に上がったし?と思えるほどバトルが上手くない。主人公の能力自体が、駆け引きも迫力も緊迫感も生まない。

そもそも京には勢力拡大のため侵略しに来たはずなのに、なぜ陰陽師は組んでるんだ??主人公側が勝ったって主人公の全国支配達成なだけで、陰陽師に何のメリットがあるんだ…
妖怪なのに人間襲う側に常に悪役補正かかるし、主人公側がいつでもどこでも無条件で正義役になってて、戦ってる理由やら何やらが全く掴めない。だから余計に最近のジャンプにあるあるな、キャラで売る漫画な気がしてならない。

でもやはり画はうまい。劇画調も描けるのは凄いです。
主人公も話も好きになれないですが、原作付きでやってくれたらきっと好きになるなぁ。

(2010年5月追記)
盃とか道を外した(?)仲間の粛清とか、やりたいのは北野タケシのようなヤクザものなのかも。直接それやると少年誌に合わないから、妖怪ってオブラートに包んで少年漫画化。まぁどんな風に解釈してみても、自分には面白く感じられない作品なんですが。

ナイスレビュー: 1

[投稿:2010-02-11 19:35:48] [修正:2010-06-02 15:00:39] [このレビューのURL]

現代を生きる若者へ捧げる、浅尾いにおの青春狂想曲!


深みはないけど、読みやすさがある!
熱くはないけど、がんばろうって思える!
シンクロ率が高ければ高いほど、心に染みるし面白いと思える作品です。

王様のブランチの特集で興味を持ちました。
種田のモデルはいにおさん自身なんですね。あまりにそっくりでビックリ!
芽衣子の部屋も職場にクリソツ。。ちゃんとギターもあって、インタビューでは「昔の自分をそのまま漫画にした」とのこと。
納得のリアリティ♪
もの凄くきれいな背景は、実際の場所や風景を写真にとってコンピューター処理してできるもの。もちろんあくまでベースの話なんで、作者の画力が決め手ではありますが、内容的にも技術的にも「現代の」漫画なんですね。
ちなみに、どことなく背景とかがサイカノやキミのカケラに似てるのは、高橋しん先生のアシスタントだったから。(気になったのは俺だけ?)

モラトリアムの時期の恋愛を描いた今作、とにかく登場人物たちの考え方が今時っぽい。
淡々としてるのに、どこか重い。
そして浅野さんらしい残酷な展開。
でもそこから物語が加速して、漠然とした今に終止符を打つべく、みんなで音楽へ向かっていく。
そしてライブのシーン…
熱くは、ない。所詮素人。でも、すごく心に響いて、目頭が熱くなる。
何も解決はしてないのに、進歩もしてないのに、何か一歩を踏み出せたという感触。たぶんその感触を掴んだ人の方が、きっとその先の人生も楽しく過ごせるのだろうな。

説教臭くはないけど、作者の考え方や感性が前面に出まくっているので、合わない人には合わないのかも。そして自己完結的な思考ばかり描かれているので、決して深くはない。
だからこそ読みやすい。ここ重要っす

画力の高さは言わずもがな、表現力もすごいです。
基本は会話や心内語ばかりなのに、ライブシーンでは全く言葉を使わないで魅せる。

色々言わせていただきましたが、この漫画のポイントは、「作者の感性に共感できるか」だと思います。だからレビュー見て買うか決めるのは、あまり参考にならないと思いますよ。

ナイスレビュー: 1

[投稿:2010-05-31 01:48:04] [修正:2010-05-31 01:48:04] [このレビューのURL]

(最新12巻読了、漫画版の感想が主ですが、少し映像版も混ざっています)

レイにアスカ、ミサトにリツコといった魅力的な女性キャラの誰よりも、物語の鍵を握るゲンドウが固執し、主人公シンジが愛されたのは、母:ユイだった。
息子らしい扱いをしてもらえず、避けながらも、父に認められたいという思いももつシンジ。
光を与えてくれたユイを溺愛するがあまり、ユイの愛情を一身に受けたシンジを妬むゲンドウ。
それでもEVAと化したユイが(パイロットとして)選び、守ったのは、シンジだった…
このいびつな親子関係が自分にとって衝撃的で魅力的だったのが、エヴァンゲリオンだ。


この作品のそこかしこに出てくる愛の形。愛に満ち溢れた作品ともいえるかもしれないが、その愛は総じて歪んでいる。そして何より、報われないのだ。

アスカの「認められたい」という気持ちは、狂った母親から娘として見てもらえなかった過去から生まれたもの。加持を愛するも叶わず、(母親の化身である)EVA弐号機とのシンクロ率が下がり、更に使徒の精神攻撃で廃人と化す。それでも立ち直りA.T.フィールドが母親の愛の形であると悟るも、ロンギヌスの槍に貫かれて果てる。それは彼女が受けた母親からの愛の脆弱さを物語っているのかもしれない。アスカほど愛に飢えたキャラクターはいない。

レイはユイの代わりに作られたもの。シンジと距離を近づけるたび、戦いの中で死に「次のレイ」に代わってしまう。ゲンドウからの愛も、レイに対してではなくユイに対するもの。

ミサトはセカンドインパクトを通じて初めて父からの愛に気付く。その後の加持との愛が父を映していると思い別れるも、次第にヨリを戻しかけていく。しかし加持は死に、自身もシンジを庇って死ぬ。ミサトさえも、愛を実現することはできなかった。

リツコは母子そろってゲンドウにふりまわされる。利用されていると知りつつも、ゲンドウへの愛から凌辱さえ甘んじて受けるほど。「女としての自分はいらない」、「女としては母を憎んでいる」という言葉とは裏腹に、ゲンドウへの愛は強く、MAGIを母親として見ていたりもする。

他にもトウジと委員長など、男女愛、親子愛、いずれもねじれていながら人間臭くもある(カヲルの同性愛も)。現代的といえばそうかもしれないが、こうも救いがないというのも珍しい。


本編の内容は、エンターテイメントとしては言わずもがな、細かいところに聖書やキリスト教を絡ませているのが遊び心満載で、奥深さも醸し出している(カバラの樹やロンギヌス、死海文書やネルフの葉のロゴなど)。
ストーリーは難解だが、アニメ版や旧劇場版はエンターテイメント性を重視せざるを得ない商業事情があったと庵野監督は言っている。そのためアクションシーンや演出は素晴らしいが、心理や内容説明が甘い。
ここで漫画の出番。
漫画版はアニメ版とは逆にアクションシーンの盛り上がりは(映像より)欠けるものの、心理や内容が充実したため物語をより楽しめる。(結論的には、両方合わせて楽しむのがベストだけど)
漫画版のポイントはアニメや旧劇場版をどこまで掘り下げて見せていけるかにかかっている。とくに漫画版が旧劇場版に追いついた今が、アニメを越えれるか否かの別れどころだ。旧劇場版は内容的にはかなり敷居が高く、エンターテイメントとしては良くても、内容はカオスだという評価が多い。至る所に聖書やキリスト教の知識が絡むが、それだけで物語やテーマが完全に理解できるわけではなく、肝心の人類補完計画も情報が少ないため自分なりの解釈しかできない(それはそれで楽しめると思うけど)。


そんなわけで、漫画に期待するものはどうしても大きくなってしまうが、エヴァの楽しみは内容だけではない。例えば上で述べた人間ドラマだけでもかなりのクオリティをもっている。難解な本編を解説しろとやっきになるよりも、せっかく漫画版で心理描写が細かく描いてくれているのだから、そちらも存分に楽しもうではないか。

ナイスレビュー: 1

[投稿:2010-05-04 19:39:08] [修正:2010-05-04 20:00:24] [このレビューのURL]