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総レビュー数: 258レビュー(全て表示) 最終投稿: 2007年06月29日

「凪渡り ― 及びその他の短篇」は高浜寛の短編集。エロい短編集。

高浜寛はラヴ・ストーリーの描き手として、ちょっと他に似た人がいない。
漫画におけるラヴ・ストーリー、その大多数は恋に夢見る少女漫画的なもので、なかなかアダルトな恋愛を見せてくれる作品は少ない。数少ないそれらでさえ質の高いものは限られていて、少女漫画の延長線上にあるものがほとんどだ。
高浜寛のラヴ・ストーリーを見ても甘酸っぱくはならない。アダルトな、成熟されたものに甘酸っぱさなんてあるはずもなくて、代わりにため息が出る。

私が気に入っている手塚治虫の言葉に次のようなものがある。

「君たち、漫画から漫画の勉強するのはやめなさい。一流の映画をみろ、一流の音楽を聞け、一流の芝居を見ろ、一流の本を読め。そして、それから自分の世界を作れ。」

近頃の多くの作家が似たように感じられるのはやっぱり漫画から漫画の勉強してんだろうなという気はする。ジョジョがいくらおもしろいとは言ってもこれほどまでにその劣化コピーが多いというのも私がそう思う要因の一つなのだけれども。

そんな中で荒木飛呂彦はもちろん、高浜寛はまさに手塚治虫の言葉を実践してきた作家の一人。
荒木飛呂彦は日本の漫画に加えて洋画(特にホラーやB級)やバンド・デシネが大好きな人だし、高浜寛は漫画より文学の影響が大きいとのこと。ちなみに彼女が漫画で一番影響を受けたのはジョジョらしいのだけれど、しかもその影響を受けた所というのが鼻の描き方というから、まあ推して知るべし。そのジョジョだってどこかの1話しか読んでないらしいしね。でも確かにジョジョの鼻はチャーミング笑。

高浜寛は好きな作家にレイモンド・チャンドラーや大江健三郎を挙げている。作中には百年の孤独の名前が見られたりもする。
そのような他の漫画家とかなり違った成分で高浜寛という作家は出来ている。だからこそ彼女は手塚治虫の言う確固とした“自分の世界”を作れている稀有な作家であり、人間の“滑稽”、つまり人間の素顔を描くことにおいて他の漫画家と比肩できない。というか漫画家でこれを描けている人がそもそも高浜寛以外にいない、残念なことに。

この短編集において高浜寛の視線は“エロ”に向けられているのだけれども、そのエロさだって大人のエロさということ。少年誌や青年誌でよく見られるような扇情的な、あざといエロさとは全く違う。
まず絵が素晴らしい。こんな色気のあるタッチで描ける人を私はこの人くらいしか知らない。光の処理の上手さから生まれる白黒とは思えない豊かな色彩や構図の独特さも相まってこの人の絵は何気ない表情がそれだけでエロい。それだけでエロいのにこの短編集では直接的なシーンがたっぷりあるわけで、まあ尋常じゃないエロさ。しかも高浜寛の描く女性の裸って、この人しか描けないものなんだよなぁ。女性ゆえだろうか、映画で女優のベッドシーンを見ているみたいというか、とにかくエロい。

絵もエロければ話もエロい。
この短編集では総じて物事がうまくいっていない抑圧された状態の男女が描かれる。高浜寛はそんな人々の心が凪いだ瞬間、そして心と心が繋がった瞬間を巧みに捉える。少女と中年男が、不倫が原因で男と別れた女性と彼女がエッチする音を隣の部屋で盗み聞きしていた男が、彼らはほんの一瞬だけ繋がる。高浜寛が描く女性の裸はもちろんエロいけど、心の裸をも少しだけ見せてくれる。
そう、高浜寛の作品がお洒落で終わらない所は、その物語が現実を切り取っているから。絵がエロいだけじゃないんだよ、人間を描いているからこそエロいのだ。

甘酸っぱい恋なんて今までいっぱい読んできた。少年の、少女の気持ちを思い出すのもいいけれど、大人ならこんなアダルトな作品を読んでもいい。今までラヴ・ストーリーが苦手だと思っていた人、世界が変わりますよ?
こんなにエロいなんて言葉を使ったことはないし、これから使うこともないだろう。それくらいエロい、エロくて切なくて、ぐっとくる短編集。

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[投稿:2011-11-27 02:50:22] [修正:2011-12-02 20:59:11] [このレビューのURL]

三宅乱丈の短編集。この人ってつくづく多才な作家だわ。

うーん、すごいよなぁ。まさしくこの人にしか作れない。
三宅乱丈という漫画家はSFからキワモノまで色んなものを一級品で作れる人。このユーレイ窓にも47C6とユーレイ窓を代表とするホラーに始まってギャグ、ヒューマンドラマと多彩な短編が揃っている。

恐らくテーマを決めて書かれたのではなくて、数集まったからまとめとくか!みたいなノリで出来た短編集だと思う。良く言えば多彩、悪く言えばごちゃごちゃしてるってことで。
しかしおもしろいのが、てんでバラバラな短編のあつまりを逆手にとっての構成だったりする。

まず序盤のホラー作品群がすげぇ怖い。特に47C6なんて震える震える。漫画でこういう恐怖を感じるのは個人的にあまりなくて、それだけでも満足なんだけど、その後の短編へのつなぎ方がちょっと尋常じゃない。
ある短編で驚くほどすぱっと切り替わる。しかも短編同士の間ではなくて短編の中で。途中までは完璧にホラーなのよ。実際すごくびくびくしながら読んでいて、それがいきなり曇り空に切れ目が入りまばゆい光が射したかのようにギャグになる。
素晴らしすぎるよ三宅先生…。とんでもない落差もあいまってめちゃくちゃ笑った。もはやシグルイ風にお美事と言いたくなる位の離れ業。前の短編を利用してのトリックなんて初めて見ましたよ。しかし狙ってんのかな? 分からない。

その後の作品も本能寺の変の新説やミント刑事などギャグ短編の傑作揃い。どちらも最高。そして最後は人間味あふれる温かい作品で締められる。
うーむ、序盤のホラーを考えるとありえない笑。しかしだからこそユーレイ窓は夜読むのにも良いんだよなぁ。怖いけれど、それが途中で笑いに変わり、最後は温かい気持ちになれる。気持ちよく眠れるわけ。悪夢なんて絶対見ない。

何かもう色々とすごい。単体としてももちろん、短編集としても。結果として出来上がったのはキワモノなんじゃないのかという気もしていて、三宅乱丈の様々な才能を楽しめる。
三宅乱丈入門にも良いだろうし、イムリやPETでその才能に驚愕した人にもおすすめしたい。こういう人を奇才って言うんだな。どこから出てきたか分からない天才。

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[投稿:2011-11-22 03:01:23] [修正:2011-11-22 03:01:23] [このレビューのURL]

エンキ・ビラルの「モンスター」が今月刊行ということで、同作者のもう一つの代表作「ニコポル三部作」について。

ちょっと前の邦訳本の例に漏れず、当たり前のように三部全て絶版中。私も残念なことにこの第一部しか持っていない。

徹底された管理国家となった未来のパリの上空に、神々の集団が乗るピラミッド型飛行船が大量の燃料を求めて滞在していた。
そんな騒然とした雰囲気の中、街の中に一つの冷凍ポットが落ちて来る。中には冷凍保存された男、ニコポルが入っていた。しかし落下の衝撃で彼の片足はとれてしまう。そこに現れたのは神々のはぐれ者、ホルス。ホルスはニコポルに鉄の義足をあてがい、彼の中に乗り移るのだった。彼らはそれぞれの目的のために手を組むことになって…。

全て読んだわけではないからあまりストーリーの解説めいたことは出来ないけれど、あまりそちらに言及する必要のある作品ではない気はする。
ファシズムや管理国家への嫌悪感、手前勝手な理屈で上から干渉してくる神々など、寓意らしきものを探せばたくさん見つかりはする。見つかりはするが、それだけという感じでそこまで傑出した物語とは思えない。少なくともこの第一部だけ見れば。

やっぱり不死者のカーニバルの魅力はもはや芸術と言える絵。この人はただでさえ上手い上にすごく手間暇かけてペイントする人なので、絵を眺めるだけで飽きない。
ブレードランナーの着想の元となったとも言われる退廃的で汚れたアンダーワールドと先行きの暗い未来都市にはもう惚れますわ。かの荒木飛呂彦のスタンドのモデルとなったらしき登場人物もちらほら。

独創的な町並み、キャラクターの造形などこの人の描く世界は本当に素晴らしい。絵が気に入った方には兎にも角にもおすすめしたい。鮮烈なイマジネーションを存分に楽しめる。
しかしビラル、メビウス、クレシーとBD作家の色彩はどうしてこんなに圧倒的なのか。見易さはともかくとして、カラーに特化しているアメコミと比べても相当に違う。作家性の強さはもちろんあるだろうが、芸術の国なのかね、やっぱり。

絶版中とはいえそれほど高騰はしてないんで十分買える範囲だと思う。じゃあ何で私が買ってないのかというとやはり絵は気に入っていても話はあまり気になっていないからだったりする。そんな作品。
ちなみにページ数は値段の割りに破格に少ないけれど、その分原書サイズで大きい(アメコミよりも)のと密度の分だと信じよう。

絶版だからなぁなんて思う人は今月に刊行されるモンスターが良いかも。こちらはアメコミサイズで少し小さめになっているけど、その分充実したページ数とさらにおまけとかなりお得な感じ。
これがお得に思える自分が既に怖い気もするけどね。そんな理性は無視して買う価値がメビウスと並ぶBDの巨匠の作品にはある。

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[投稿:2011-11-11 00:36:11] [修正:2011-11-11 00:39:07] [このレビューのURL]

本場ゾンビコミックの傑作。
翻訳者のツイッターによると2巻がどうやら決定した模様。やったぜ!

冒頭でゾンビコミックの傑作と書いたが、よくよく考えると恐らくこの作品とアイ・アム・ヒーローくらいしか漫画でゾンビものを読んだことがない。ACONYみたいな変化球は除いて。
そもそも私はゾンビ系のジャンル自体あまりおもしろいと感じるものがなくて、唯一の例外がアイ・アム・レジェンドだった。もちろん映画ではなく小説の方だけど。
そしてアイ・アム・レジェンドとはまた違ったベクトルでゾンビものの私的金字塔となりそうな作品が、このウォーキング・デッド!

主人公のリックは警察官。ある日脱獄囚との銃撃戦でリックは撃たれ、意識は断ち切れた。病院で目覚めたリックは異変に気付く。周りに人が見当たらないのだ。誰かいないかと探していると、ゾンビと化した死体に出くわし、世界が永遠に変わってしまったことに気付かされる。
家族と何とか合流できたリックであったが、もはや政府や通信網は機能していない。緩慢な動きではあるがゾンビに噛まれるとその者もまたゾンビとなってしまう恐怖に脅え、人が増えるごとに人間関係は煩雑になる。国も希望もない中で、人間はどのように生きていくのか…。

スタンダードなゾンビ映画の面白みって何だろう。門外漢の私はあまり分からないが、それがホラー的なものであるならばウォーキング・デッドとは異質と言える。この作品においてゾンビはもちろん大量に登場するし、どこから現れるか分からない彼らは確かに恐ろしい。でも肝はそこではない。
ウォーキング・デッドの良さというのは良質なヒューマンドラマに通ずるものがあるように思う。それは人間を描くのが、そして何より人間関係を描くのが上手ということだ。

法や国という縛りはなくなり、人間の多くが死に絶えた世界。こんな世界でも彼らは食べなければいけないし、子育てもしなければいけない。日々の生活を営む中で人とのつながりはなくならない。
そんな極限状態にある人間達をカークマンはたまらないほど巧みに描く。人は死に、時に狂う。かつてのしがらみが消えてしまったからこそ、人の素顔はさらけ出される。
すっごく刺激的。あくまで読み物とはいえリック達には失礼かもしれない。でも本当におもしろい。

1巻において彼らはコロニーを作り、少しずつ人を増やしながら安息の地を探す。何が正しいのか?、どうすればいい?、こんな絶望的な世の中でリックはそれでも尚全力で知恵を尽くし、行動する。もはや正しい道なんてないのかもしれない。それでも生き延びたいなら戦うしかないのだ。
しかし乗り切っても乗り切っても問題はなくならないんじゃないか?と思う方もご安心、これは終わらないゾンビ映画なのだから。著者はゾンビ映画の弱点はエンディングにあると言う、その後に何が起こるのか知りたいと。だからこそこのウォーキング・デッドはリックの一生を描く年代記になるらしい。成功すれば最高の試みだろう。

現在ウォーキング・デッドはアメリカで14章が刊行されており、この日本版ウォーキング・デッド1巻には3章分がまとめて収録されている。インタビューによると90号まで書かれているが、200号までの構想はあるということ。長いよ笑。とはいえ終わらないゾンビ映画、カークマン流終末の叙事詩なのだから仕方ない。でもこの質が保たれるならばこんなに嬉しいことはないし、さらに上だってあるかもしれない。
あんまり長くなると、邦訳で全て見れるか不安になるのは事実なのだけど、こんなに刺激的で濃密なコミックというのはゾンビに限らずなかなかあるものじゃない。一度読むと目が離せない緊張感、そして数少ない緩和にほっと一息ついてもすぐにそれは破られる。たまらない。

来年の2月からは日本でもドラマのレンタルが開始され、恐らく春にはコミックの2巻が発売される。
ウォーキング・デッドの(ミニ)旋風が巻き起こってますよ! たくさんの人が読めば最後まで邦訳も続く、これは確か。この値段でこの質と量ならかなりのお買い得です。ぜひぜひおすすめ。

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[投稿:2011-11-06 01:49:02] [修正:2011-11-08 00:47:05] [このレビューのURL]

前作「虫と歌」で見せた才能はちょっとした衝撃だった。本物かどうか、試金石となる現在進行形の奇才の2作目。

この市川春子の2作目ではっきりしたことは幾つかあって、とりあえず言えることは彼女の才能が本物だったということ。「虫と歌」はまぐれではなかった。
そりゃそうだろ、と仰る方もいるかもしれない。でも2作目以降ガタっと作品の質が落ちる作家は少なくないし、1作目が良かったからこそ2作目への期待はもちろんだけど同じくらいの不安もあった。
もう分かっただろう、25時のバカンスを読むとそんな不安は粉々に消えてなくなった。表現はより洗練され、物語は深化している。

25時のバカンス 市川春子作品集(2)には表題作25時のバカンスを含む3話が収められている。
前作と変わらず人と人以外のものとの交流が叙情性豊かに語られる物語となっている。そういう意味で市川春子の描きたいものは以前と変わらず一貫している。

しかし明らかな変化も見受けられる。
虫と歌の記事で私はこう書いた。少しずつねじれていて、変質的で、痛すぎる、と。でも“痛さ”は25時のバカンスで“無機質な美しさ”に昇華される。
表題作「25時のバカンス」を見て欲しい。貝殻人間の体の中に手を差し入れる場面の何とエロティックなことか。「月の葬式」だってたまらない。月に生きた最後の男を蝕む奇病はその孤独と寂しさを哀しいほどに美しく表現する。「パンドラにて」だけはちょっと味わいが異なっていてそれも良い。宇宙空間での言葉にならない侵食はウイルスが染色体を注入するイメージからきているのだろうか。

もう一つ自分の中ではっきりしたことは高野文子と市川春子の違い。
市川春子はよく高野文子のフォロワーとされる。もちろん彼女の影響は顕著なのだけど、それは絵柄や表現技法など作画方面に偏っているように思われる。
高野文子がテーマありきで話を作るのに対して、市川春子はあくまで彼女の世界観に沿った話を作ることに力を傾倒する。SF的なガジェットだってあくまで世界観を装飾するための道具だ。その意味で市川春子の物語というのは以前紹介したポリス・ヴィアンと岡崎京子のうたかたの日々に近い。

25時のバカンスを読み解こうとするのは人ならざるものと交流することに似ているかもしれない。違うものを理解しようとする時に人間の美しさは垣間見える。
理系的な知識に裏付けられた物語はさらに美しさを増して、私達に豊潤な漫画体験をもたらす。類型化されていないこのような作品を切り捨てるのは簡単だけど、それゆえに私は2つとないものとして貴重に思うのだ。そして多分そんな人は少なくない。

[追記]
ダ・ヴィンチの11月号に市川春子のインタビューが載っていた。
彼女によると、“賢い人”は社会にその頭脳を還元出来る人で、“頭のいい人”は自分のために使ってしまう不器用な人らしい。今作「25時のバカンス」ではそんな頭のいい人達が愛するもののために奮闘するのが一つのテーマだったということ。

すごく納得した。それで「虫と歌」より読みやすくなっているんだなと。天才でも“頭のいい人”だからこそコメディ要素や憎めない部分が輝いて、人間らしい美しい心が際立つ。

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[投稿:2011-10-26 00:21:52] [修正:2011-11-05 01:45:54] [このレビューのURL]

アダムス・ファミリーという名前は大体の人は聞き覚えがあると思う。そもそもこの作品が著名になったのは映画やドラマの影響が大きいみたい。私は世代的にどちらも見ていないからやはり名前くらいしか知らなかった。
じゃあ何で買ったの?と思うかもしれない。実を言うと「ファン・ホーム ~ある家族の悲喜劇~」を読んでいて、アダムス・ファミリーの話題が出てきたのだ。何となくおもしろそうな予感があった。

で、その少し後全集が刊行予定と聞いて購入を決めたわけ。
結論から言うと、すげぇ良かった。こんな家族いたらいいよねぇ。絶対隣人には欲しくないけど。

「考えてみたらすてきじゃありません? この子たちの幸せな子供時代のひとこまを、こうしていつまでも見られるなんて」

一家の母がこんな台詞を言う作品を例に挙げてみよう。
一見家族がみんなで映写機で子ども達の活躍を見ていると言う微笑ましい光景に思える。しかし映写機に写っているものを良く見ると、何と家に来た郵便やさんを子ども達が縄で転ばせようとしているではないか!
アダムス・ファミリーというのはこのような捻った毒のあるカートゥーン、一コマ漫画なのだ。

これ程ブラックな作品なのに、愛おしいのは何故か?
それはやはり本人達が大真面目だからだろう。毒があると言っても、嫌がらせや悪趣味な作品では決してないのだから。

「今不幸せかい?」「もちろんよ!」

という仲睦まじい夫妻の会話が示すように、彼ら一家は不幸せを尊び、異端を愛する。悪趣味でやっているのではなくて、彼らは好きで好きでしょうがなくてやっているのだ。
例え世間からは彼らが変に思えたとしても、彼らは世間を変に思っている。優等生名簿に載せられたといってウェンズデー(一家の長女)は泣き、先生から警告の手紙が来ると夫妻はパクズリー(一家の長男)を褒める。

そう、世間の価値観を抜きにすると彼らは理想の家族に思える。そして彼らの価値観と世間の価値観のずれがおもしろさを生む。にやにやしながら見てしまうのだけど、もう自分でも微笑ましくて笑っているのか毒にやられているのか分からない。

チャールズ・アダムスのアートも素晴らしい。ティム・バートンが影響を受けたの言うのも納得の美しさ。ゴシックで、毒があって、ホラーな世界。こんな所にアダムス・ファミリーは暮らしている。

いやー、本当に最高だよ?この全集。迷っている人はぜひ買うべき。詳細な解説も編集の方の愛だよなぁ。

にやにやしながら眺めて良し、チャールズ・アダムスのアートに見惚れるも良し。こんな個性的な面々の家族がいたらいいなぁと思いつつも関わりたくはないなと思うのだった。

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[投稿:2011-11-04 20:31:35] [修正:2011-11-04 20:31:35] [このレビューのURL]

8点 HELLSING

平野耕太のアメコミチックな吸血鬼漫画。

正直ストーリーはうすいと思う。設定は独創的だし多少謎めいた展開ではあるものの、凝った精密なストーリー展開も何かを伝えようとするメッセージ性も感じることは出来ない。
では何故ここまで評価されているかというと陰影を効果的に使ったアメコミのような絵と迫力のあるポーズとコマわり、そして何といっても格式高い大げさな台詞回しが本当にすごいから。
ブリーチのレビューを見たら分かるようにこのサイトの住人のような漫画好きは基本的に話の内容・メッセージ性を重視する人が多いと思う。そんな人たちすら惹かれてしまうほど平野耕太のセンスはずば抜けているのだ。多分ブリーチでもセリフと絵を平野耕太に任せれば最高におもしろくしてくれるんじゃないかな。

基本的に狂ったキャラクターばかり出てくるので感情移入をすることはできない。ただただ見入るのみ。
でもそれだからこそ、たまにあるアーカードの寂しげな顔・ベルナドットの最期・裏切ったウォルターの心理描写やお別れのシーンなどの王道ともいえる展開にはぐっとくる。

個人的には対アンデルセンがマックスだった。とはいえ最終回もらしさ全開でおもしろかったし、意外にうまく締めれてたと思う。
こういう偏った漫画は大好きです。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2007-11-22 00:13:07] [修正:2011-11-02 22:22:25] [このレビューのURL]

これが初連載とは思えない程の完成度の高さと、初連載の青臭い勢いが同居しているすごい作品。この作品のテーマも普遍的で、ありふれたものなのだけど、結論に至るまでの過程がとてもよく、納得できるものだった。3巻でそれまでのテーマにある程度の決着がつき、四巻はフィーを中心とした話となるが、それも良かったことはよかったのだけど、ちょっと作品の軸がぶれたようにも思える。

どの巻でもいえることだけど、特に四巻で顕著だったのが最後の締めがすごく良い。最後でしっかり決めているから読後、とてもすっきりした気分になれる。

ヴィンランド・サガではこの作者独特の勢いみたいなものがなくなってしまっていてとても残念なんだけど、この作品でそれを体感して欲しい。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2007-07-09 21:13:54] [修正:2011-10-27 18:03:03] [このレビューのURL]

人によって相当評価の分かれる漫画だろうと思う。セカイ系な作品なんだけれども、そこから一歩抜け出したものを感じる。

あの短い話数の中であれだけ子ども達の心理を表現できているのは見事だと思う。どの話も質が高いけど特にはダイチ編とマキ編が好きだった。マキ編のラストには鳥肌が立った。

どの話もラストがしっかりしていてよい。キリエ編のラストは秀逸だった。一つ難を言うならば、カコ以降死を簡単に許容してしまう子どもが多いこと。それぞれに理由はあるんだけど。あと、中一にしてはキリエやモジが大人びていすぎる所にも違和感は感じる。

なるたる同様ラストでこの作品の評価は決まると言えるだろう。鬼頭先生だからないとは思うけれど、頼むからゲームオチとかはやめて欲しい。個人的に幾分かなるたるよりはマイルドになったと思うのでなるたるが嫌いだった人も読んで欲しい。

ナイスレビュー: 1

[投稿:2007-05-27 19:44:40] [修正:2011-10-27 18:02:38] [このレビューのURL]

谷口ジローの私小説的漫画の傑作。犬を飼ったことのある人にとってはたまらない。

彼は妻と二人暮らし。子どもはいない。彼らはタムという年老いた犬を飼っている。
「犬を飼う」はタムの最後の一年を描く物語。日に日に年老い、体が弱っていくタム。彼らはタムのことを考えて色々と尽力してサポートするが、死へ近づくのは止められない。そしてとうとう避けられない日がやってくる。タムとの暮らしは2人に何を残したのか。
「そして…猫を飼う」からの3編はタムの死後、彼らが猫を飼うことになったきっかけ、その後の日常が描かれる。ペットを飼うことで得られるもの、苦労もある一方そのかけがえのない喜びが語られていく。
「約束の地」は前者2つと話が一変、家族がいるもののヒマラヤへどうしても惹きつけられる男の物語。

谷口ジローはバンド・デシネに大きく影響を受けた作家ということはよく言われる。その影響だろうか、一コマあたりが濃く、あまり遊びのコマが見られない。「犬を飼う」ではその緊迫感が話の密度を上げるのに一役買っている。

この犬を飼う、私にとってはたまらない話だった。というのも私が子どもの頃に家でも犬を飼っていて、その最期はどちらかというと何もしてやれなかったような後悔があったから。谷口ジローとその奥さんはまるで自分の親を介護するように、タムの世話をする。その心労のために会話も少なくなったりする。タムは家庭に良かれ悪しかれ影響を及ぼす家族の一員なのだ。
心打たれる名編だが、自分の過去のペットに対してかなり忸怩たる思いになった。でもここまでする覚悟がなければ動物を飼うべきではないのだろう。

で、そんな多少暗い気分を吹き飛ばしてくれたのが「そして…猫を飼う」からの3編。
ここには動物と共に暮らすことの喜びが詰まっている。世話をする苦労を超えるものがある。その中の「三人の日々」はあまり猫は関わってこないのだけど、その記憶をを思い出すときに確実にその傍らに猫達はいると思う。ペットってそんな存在だよね。

「約束の地」は山、何といっても山。神々の山嶺でも存分に見られる、山の迫力、魔力は圧巻だった。写実的に上手い作家なのはもちろんだけど、それだけではこうはいかない。

秀作ぞろいの谷口ジロー作品だが、これもまた良い作品。図書館で借りたものだけど、これは買って手元においていきたい。
そして何だかんだいつかまた動物を飼いたくなったのだった。自分以外の世話も出来るようになったと思えた時に。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2011-10-21 00:22:43] [修正:2011-10-21 00:28:50] [このレビューのURL]