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総レビュー数: 258レビュー(全て表示) 最終投稿: 2007年06月29日

 近藤聡乃という作家は、最近のいわゆるガロ系の代表格の一人になるのだろう。幻想的な物語と美しい線、そして奔放な絵。紛れもない天才なんだけど、届く人を選ぶというのが私の印象だった。
 しかし「うさぎのヨシオ」で彼女が見せるのはこれまでと異なる全く新しい魅力だ。しかも何と四コマ漫画なのだからねぇ、いやはや恐れ入る。これはより広い人の心に届く、嬉しい近藤聡乃の新境地。

 つげ義春に憧れ、喫茶メリィでバイトをしながら漫画家を目指すうさぎのヨシオ。漫画を描いたり、恋をしたり、悩んだり…愉快な仲間に囲まれながらヨシオはまんが道という青春を歩んで行くのです!

 おもしろい会話を描ける漫画家はセンスがあるというのはまあ間違いのないことで。軽妙洒脱なテンポの小気味良いやり取りというわけでもなく、すんごくゆるーい雰囲気にも関わらず、この漫画では会話が不思議とおもしろい。
 一つには、会話がすごく自然なのだ。実際音読してみれば分かるように、なかなか漫画の台詞って芝居がかっちゃうものなのだけれども、この作品ではほとんど違和感がない。冗談のどやっ!みたいな感じも含めて、なさそうでありそうな感じ。だからこそ、けっこうな台詞の多さにも関わらずすらすらと読まされる。

 そんな会話が楽しめるのも、ヨシオくんはもちろん、バイト仲間のメリィさんやミカちゃんなどのキャラクターの造形が素敵だからこそ。しかしまさか近藤聡乃の漫画で、会話の妙や素敵なキャラに魅せられるなんてね…。百年の孤独の次の一冊に101回目のプロポーズのノベライズ版を勧めるセンスは素晴らしい笑。

 ヨシオに関してはどの程度かは分からないけれど、近藤聡乃自身が重ねあわされているのだろう。それもかなり意図的に。これ、近藤聡乃流のメタな手法だと思うのだけれど、巧いよなぁ。
 つげ義春に憧れるヨシオ、つげ義春の影響を受けて奇をてらったあたりがありきたりだねと言われるヨシオ、ストーリーの弱さを気にするヨシオ…読む側はどうしてもその裏に近藤聡乃の影を見てしまう。そんな影が、実はヨシオのまんが道としての物語を一段上に押し上げているわけで。つくづくおもしろい。

 また相も変わらず、近藤聡乃の絵は良い。四コマということで、これまでよりかなりライトで見やすい画風になっているからこそシンプルな描線の美しさが際立つ。やっぱり漫画で大事なのは一枚絵としての美しさじゃないんだよなぁ。連続したコマの美しさをこれ程までかと魅せてくれる点で、「うさぎのヨシオ」には漫画の醍醐味がぎゅっと詰まっている。

 今までの近藤聡乃の漫画は個人的に好きではあっても、なかなか人に勧める気にはなれなかった。届く人を選ぶからこその良さだと思っていたし。
 でもこの「うさぎのヨシオ」で近藤聡乃は彼女の良さはそのままに、読者の側にぐっと寄ってくる。簡単なように見えて、奇跡的な離れ業。また改めてその才人っぷりにほとほと感嘆しました。だからこそ多くの人に読んで欲しいし、より広い人の心に届くであろう四コマ漫画。おすすめ。

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[投稿:2012-05-13 14:14:32] [修正:2012-05-20 22:54:27] [このレビューのURL]

 変な作品だし変な作家だよなぁ、とつくづく思う。水木しげるやいましろたかしを思い起こさせる絵柄に星真一や藤子・F・不二雄を髣髴とさせる読み心地。そのような作風は生まれてくる時代を間違ったような気もするけれど、その一方で少し新しい感じもして、しかし島田虎之介のようにレトロモダンとまでは言い切れない。

 この作品は、そんな異才・笠辺哲のデビュー作である短編集。本当に変で、そして本当におもしろい。短編好きの私としても、たまらない作品だった。
 
 事故って船ごとアパートに突っ込んできた宇宙人とそこに居合わせた子ども、未来予知装置を開発した博士と実験台になった記者、タイムトンネルになっているロッカーを使って未来過去貿易する男たち、というようなSFチックなお話を中心に、少しずれた現代のお話まで多彩な物語が収録されている。
 紹介してみようと書き出して困ったのは、簡潔なストーリーを見ても全くこの作品のおもしろさが伝わらないってことで。だから買って読め!…ではあんまりなのでもう少し頑張ってみる。

 「まっ、色々と教訓がありそうだけど、よくわかんない話だね」

 この短編集に対する印象を上手く表している作中の台詞だ。ほとんど漫画の中には、その作家の主張なり価値観なりが透けて見えてくる。しかし笠辺哲の作品には全くそんなものは感じられない。
 要はこの人、とことんおもしろい漫画を作ろうとしているわけで。少しだけグロくて、少しだけコミカルで、少しだけSFで、そしてひたすらにブラックで先の読めない漫画。そんな漫画は最高におもしろいでしょ? ある意味で笠辺哲は広い漫画界でも最上級のエンターテイナーだ。だってこんなに純粋におもしろい漫画を作ろうとしている人はいないもん。

 どの短編も悪趣味で、ひたすらにくだらなくて。でも笠辺哲の飄々とした雰囲気にくるまれると、それこそがおもしろいし中毒になっちゃうんだよなぁ。
 というか、エログロとか悪趣味とかくだらなさとか、そういうものがやっぱりエンタメの一つの本質なんだろうと思う。それをここまで実感させてくれる漫画家はなかなかいないし、だからこそ笠辺哲は本物なのだ。

 短編好きにはもちろん、漫画をとにかく楽しみたい人はぜひ。かなり広く受け入れられる素地はあると思うのだけれど、そんなに売れてなさそうなのはやっぱり変な漫画家ゆえか。手に取ってみれば後悔はしないはず。

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[投稿:2012-04-04 23:09:21] [修正:2012-04-04 23:11:03] [このレビューのURL]

 岩岡ヒサエは土星マンションが初めてだったのだけれど、これは好きだった。
 完結後に一気読みしちゃって、連載中にゆっくり読んでいきたかったなぁとちょっと後悔したりして。本当はもっとかみ締めるように読んだ方が良いような、そんな作品。

 人々は地球に住むことを許されず、地球を囲う上中下層に分かたれたリングシステムで暮らすようになっていた。リングの下層住民ミツは、事故で亡くなった父親と同じく、リングの窓拭きとして働くようになって…。

 いわゆるラリー・ニーヴンのリングワールドの世界。一応SFということにはなるのだけれど、土星マンションで描かれるのはあくまでリングに生きる人々だ。隣家の住人、窓拭きの組合の仲間たち、ミツが依頼を受ける上層の住人たち…ミツの世界は少しずつ広がっていく。

 優しいSF人情劇。みんなまっすぐなんだよなぁ。捻くれた真でさえも、まっすぐに捻くれていて。また数少ない悪人(この言い方もしたくないけど)にだって、感じるのは嫌悪ではなく人間の業に対する痛々しさだ。良いお話が良いお話としてすっと入ってくる素晴らしさを存分に味わった。
 岩岡ヒサエが描くリングで囲まれた世界にはブレがない。多分この人、自分の頭の中には確実にその世界が存在しているのだ。それを覗いて絵にしているんじゃないか、とさえ思ったりして。またフリーハンドで構築された世界は物語に対して感じる印象と同じく、素朴で優しい。絵と物語がぴったりと調和している。

 そんなユートピアのような世界でも、時は動いていく。窓拭きを辞める人もいれば、新しく入ってくる人もいる。永遠じゃないからこそ、よりこの世界とここに住む人々が愛おしかった。
 土星マンションで一貫して描かれ続けるのは、人のつながりの大切さだ。ミツを通してつながってつながってつながった絆は、ラストに結集される。仁さんだけではなく、みんなが叫んでいるのだ。
 
 「どこにいたって、一人きりになんてさせねーからな。」

 シンプルで、でも人が忘れやすいもの。それが素直に心に染み入ってくるのは良い作品ですよ。リングシステムであっても、確かに人間は生きていた。SF好きにもそうじゃない人にも、おすすめ。

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[投稿:2012-03-27 18:58:29] [修正:2012-03-27 18:58:29] [このレビューのURL]

 中村明日美子は今でこそ少女漫画やらサスペンスやら果ては相撲まで幅広く描いているのだけれど、元々はBLで有名な作家だった人。彼女の少女漫画、そして一般向けの初の単行本がこの片恋の日記少女になる。
 しかし少女漫画の定義が曖昧なのは置いておいても、一般的に言う少女漫画とはかなりずれているなぁと思うわけで。これは多分生粋の少女漫画家には描けない。

 何かもう目の付け所と話の展開が絶対的に違うなと。ゲイもの、ロリ、出会い系、シスコン…など表だけ見てもそうだし、端々にも普通の少女漫画にはないエグみを感じた。
 よしながふみの対談本で、よしながふみが「BL界というのは今の少年漫画にも少女漫画にも青年漫画にも居場所がない作家が行き着く場所なんです」的なことを言っていたのだけれど、中村明日美子がそこから出てきたというのはすごく納得できる。独特の嗜好って意味でもそうだし、圧倒的に自由な所からしか出てこない才能なのだろう。

 そして中村明日美子のすごさは、そのエグみと短編一つ一つのクオリティの高さが完璧に融合しちゃってる所で。この人の短編は本当におもしろいのだ。長編の延長線上で短編を描く漫画家とは根本的に違い、中村明日美子は短編を短編としてしっかり描ける人。私の短編読みたいなって気持ちを完全に満足させてくれる。

 例えば「父と息子とブリ大根」では、東京でオカマちゃんになった満が家に帰ってくると、息子を訪ねてきた親父が何と部屋の中に。親父は息子がオカマになったとは知らず、女の格好をしている満を息子の彼女と勘違いしてしまう。こんなとんでもない冒頭が、捻りに捻った話に魅せられ、父の憎めないキャラに笑った挙句、最後は“父と息子”の心温まる話に帰結する。
 このように、どの話もかなり突拍子もなくて作者の独特の性的な嗜好も伺える短編なのだけれど、最後にはかなりぐっと心が動いてしまう。本当に構成と語り方が素晴らしい。特にお気に入りは「父と息子…」、「とりかへばやで出会いましょう」あたり。ただどれも珠玉と言ってよいくらいのクオリティ。

 また絵も達者だよなぁ。綺麗で見やすい絵を描けるのはもちろん、デフォ絵も上手いのだけれども、それだけではなくて。例えば前述のオカマは美人なのに、あくまで美人なオカマなのだ。また「娘の年ごろの娘」なんてロリっぽいとかじゃなくて見事なまでにロリ。ここらへんは絵が達者すぎてちょっとやばい匂いがするくらいに。

 中村明日美子は本当に短編好きにはたまらない作家ですよ。「曲がり角のボクら」、「鉄道少女漫画少女」とそれぞれ違った味で楽しめる。特にこの作品はエグみが強いので、少女漫画好きな方だとかなり新鮮な気持ちで読めると思う。おすすめです。

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[投稿:2012-03-08 00:38:21] [修正:2012-03-08 00:38:21] [このレビューのURL]

 恐らく世界初の朗読漫画。やっぱり読書って良いよねぇ。

 ここ数年マイナージャンルを扱ったが作品が多いのは、漫画がそれだけの多様性を内包できるようになってきたというのもあるし、何より既存のジャンルが行き詰ってきたというのもある。これ程たくさんの漫画が生み出されてきた中で、“新しい”漫画を描くのは難しい。特にサッカーや野球、三国志なんてね。
 そんな中で、マイナージャンルものが人気というのはある意味自然に思える。今まであまり描かれてこなかったものが描かれる。パイオニアの苦しみはあっても、それは新しい道を切り開いているということだ。私達は一味違った漫画が読めるということだ。

 ただいくら何でも「朗読」とはなぁ。さすがに無茶じゃないかとは誰もが感じると思う。声が見えないというのはまだ良い。でも朗読とは何なのか、ということがそもそもぴんと来ないわけで。多分今まで色んなマイナージャンルものを読んできた中でも一番よく分からないものだった。
 しかし「花もて語れ」を読むと、そのぴんと来なかったものがぴんと来る。それだけじゃない。朗読というものが最高に魅力的に見えてくる。マイナージャンルものを読む醍醐味の一つを存分に味わえる。

 最初に扱われる朗読は宮沢賢治のやまなし。「クラムボンはかぷかぷ笑うよ」、という台詞を聞けばほとんどの方が小学校の国語の授業で一度は読んだことを思い出すのではないだろうか。
 このやまなしを最初の朗読に選んだのが上手い。この作品、私はすごく印象に残っているのだけれど、それは何と言っても訳が分からなかったから。初めて読んだ時も、授業の後も、どんな話やらさっぱり分からなかった。そんなやまなしがハナの朗読によって生き生きと見えてくる。物語の世界に吸い込まれる。やまなしの魅力を理解した頃には、朗読にもまた魅せられているのだ。

 決して絵が上手というというわけではない。でも漫画を描くのは上手い。力強い描写、そして読む側と聞く側の心情を絡めた圧倒的な演出でガンガン読ませる。時にはほろっとしたりもする。
 ジュビロ先生の元アシと聞いた時にはちょっと意外な気もしたのだけれど、よくよく考えてみて納得。マイナージャンルものにも関わらず、この王道感がすごい。主人公とその友達が競争にならないあたり確実に文科系なのだけれども、やっぱり熱血なんだよなぁ。中国春秋時代を舞台にしているキングダムのように、自身が切り開いた道が王道となるのだ!とでも言うようなパワーがある。
 
 今の所文句なしにおもしろい。私も読書は好きだけれど、もっと深く本を楽しむことが出来るのかもしれないな、なんて「花もて語れ」を読むと思う。
 ただやっぱり漠然としたジャンルなので、ステップアップを上手く描いていかないとなかなか難しいかもしれない。3巻のデビュー時点で、既にけっこうな聴衆から拍手の嵐という状態なのでなおさら。でもどこに向かうにしろ、この未知の道を切り開く蛮勇は漫画好きなら見る価値がある。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2012-01-22 22:27:10] [修正:2012-01-23 12:27:15] [このレビューのURL]

「格好いい戦争などありはしない」という帯と太田垣康男が原作というのに惹かれて読んでみた。
ゲーム、フロントミッションの世界を舞台とした戦争オムニバス。戦場で誰にも気づかれることがないという戦場カメラマンの犬塚を狂言回しとしてヴァンツァーというロボットを使用した凄惨な戦争が描かれる。

基本的には1巻未満の短編が連なった構成です。犬塚が登場することを除いてはどの短編もつながりはありません。
この作品で描かれる戦争はひたすらえぐい。死ぬ思いをして死線をくぐり、敵兵を殺しても爽快感などみじんもない。そんな中、戦場の透明人間犬塚はひたすら惨劇を楽しみより残酷なシーンを撮ることに全力を尽くす。そのような犬塚に嫌悪感を感じない人はいないでしょう。
しかし読み進めていく内に気づかされてしまう。犬塚は自分なのだと。カメラのファインダーや新聞記事を通してしか戦争を知ることができない私達。実際戦場にいながらも現実感の欠片もなく戦争を眺めている犬塚や、犬塚の撮った動画を興奮して見ている人々には戦慄せずにはいられない。戦争に嫌悪感を抱きながらも「刺せ! 止めを刺せェェ!!」と犬飼と一緒に叫んでいる自分も確実にいるのだから。共感できてしまう身近な狂気というものがこの作品の特異な雰囲気でしょうか。

個人的なお気に入りは何も持たない男と全てを持っていた男の話「英雄の十字架」と珍しく犬塚が主軸にすえられた「UnLuckyDays」。英雄の十字架は戦争の矛盾と狂気にひたすら圧倒され、UnLuckyDaysは人間の二面性と善意とは何か考えさせられた温かみがありながらも毒の強い傑作です。
現在連載中の「羊飼いの帰還」は話の長さといいストーリーといい異色の章となっています。かなりエンタメの方に軸が傾いていて今までと話が違いすぎる気がしますが果たしてどうなるのか。

かなり皮肉な構成の本作ですが毒にならなければ薬にもならないということでかなり質の高い戦争アクションとなっています。エロとグロがかなり露骨に描かれるので苦手でなければどうぞ。元ネタのフロントミッションを私は知りませんが全く問題ないです。
架空世界の戦争ものだとこれと機動旅団八福神はもっと読まれていいと思う。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2011-08-20 16:38:50] [修正:2012-01-22 22:16:47] [このレビューのURL]

佳作ぞろいの森本梢子作品の中でも個人的には一押しの医療コメディ。

研修医なな子は丁寧な取材とコメディ部分のバランスが絶妙。一昔前の研修医の実態というのがかなり興味深く読める。この後の森本先生の作風はコメディ成分が強くなっていくわけだけど。

医療漫画は重病、難病のオンパレードで基本的には気軽に読むという観点からは遠いものが多い。
その点この作品は研修医の日常を面白おかしく描いているのでさくさく読める。医者であってもそりゃまあ恋愛だってするし、結婚式に出席したりもするよね。着眼点がおもしろいです。
コメディタッチとは言っても取材はかなり丁寧に行われていて解剖や手術はもちろん、医局の雰囲気や医者の世界のルールまでリアリティのある内容に仕上がっている。

実際こんな感じなのかもしれないな。命を扱う職業とは言っても常に張り詰めてたらパンクしてしまう。仕事中は真摯でも、休日や仕事終わりには彼らも普通の人に近い緩い時間を過ごしているのだから。
笑ってしまうような患者だっているだろう。患者を支えるだけじゃなくて仲良くなることだってあるだろう。医者にとっては常識でも私達一般人にとっては笑えるような話もあるだろう。
そんな医療の世界の重い部分はもちろん、陽の部分というのをこの作品は上手く捉えて描けていると思う。

医者になりたいと思わせてくれる稀有な医療漫画。医学部に向けて受験勉強している人がモチベを保つのにもおすすめです。
何といっても医者である私の姉が高校時代に愛読していたので間違えないはず笑。

ナイスレビュー: 1

[投稿:2011-08-31 02:18:30] [修正:2012-01-22 22:16:00] [このレビューのURL]

サッカー漫画の異色作にして個人的なベスト。まあ純粋なサッカーだけを描く作品ではないんで、一括りにしたら怒られるかもしれませんが。

女の子にも関わらず男子サッカー部に所属する恩田希。部内で随一のテクと創造性を持つも女の子ゆえに試合には出れない。しかし新人戦の1回戦に彼女はどうしても出場したい理由があって…。

この作品はサッカーにおける体格の重要性、男と女の違い、女子サッカーの現実、少年少女期の終わり、など欲張りなほどテーマをたくさん盛り込んでいる。
確かにそれらは興味深いけれど、そのおかげで楽しめたのかというと少し違う気がする。
では何がこの作品のすばらしい所なのか。

次に飛ぶためには、体を屈めなければいけない。
恩田は誰よりも低く屈んだからこそ誰よりも高く飛ぶことが出来た。誰もがそう、見とれてしまうほどに。
澱のように溜まっていたものが開放される時にカタルシスが生まれる。その点でさよならフットボールのカタルシスは半端じゃない。2巻の途中から鳥肌立ちっぱなし、そしてクライマックスではもはや鳥肌の上に鳥肌が立ったかのように感じてしまう。そしてひしひしと伝わってくるサッカーの楽しさ。
まさかサッカーで泣かされようとは…。

「ノンちゃんのフットボールには夢がある。」
まだ読んでない皆さん、あなたも恩田希のフットボールに魅せられてみませんか?

ナイスレビュー: 0

[投稿:2011-09-10 13:11:02] [修正:2012-01-22 22:15:27] [このレビューのURL]

 何というか、読み返すたびに色んな意味で何とも言えない思いになる。

 羅川真里茂がドラマを描く名手であることは私が言うまでもない。「赤ちゃんと僕」の広瀬とその漫画家である父親のエピソードにおける、“漫画は人間同士の心が動くからおもしろいんだ”という拓也の台詞は羅川先生の偽らざる気持ちだろうし、それを今まで実行し続けているから羅川作品はまさにずっと変わらずおもしろい。

 赤ちゃんと僕、しゃにむにGO!、いつでもお天気気分、チムアポート、ましろのおと…ホームドラマからスポーツや音楽もの、ファンタジーまで羅川作品の核には人間同士のドラマがある。チムアポートは以前書いた記事のように、ファンタジーとしては今ひとつでも人間ドラマとしてはやっぱりおもしろかった。
 それは“贖罪”という重いテーマを持つ3中篇を収録した、この「朝がまたくるから」においても変わらない。やはりどんなに重苦しいものであっても羅川真里茂は美しくドラマに仕上げ、彼らを救済してしまう。

 最初見た時、素直に感動した。ああ、羅川真里茂の真骨頂だなと。でも読み返していくうちに、ふとここまで物語を堪能してしまって私はいいのだろうかという疑念が芽生えてきてしまったわけで。
 誤解して欲しくないのは、羅川先生が真摯にそれぞれの作品のテーマと向き合っているのは確かなのだ。でも、何というか美しいドラマに仕上げて、読者をすっきり感動させてしまうのは羅川真里茂の持ち味だけれど、それはこのようなシリアスな作品集において長所と裏返しの欠点も露呈してしまっている気がする。

 要は“重さ”がよりドラマを盛り上げる助けになってしまって良いのか?、ということで。こんなシリアスなテーマなのにそのおもしろみはいつもの羅川作品と変わらない。相も変わらず、美しい物語に読者は酔いしれ涙する。
 それは素晴らしいことでもあるけれど、でも「朝がまたくるから」においてはいつものように全てを肯定することはできない。ドラマであるということは、裏返すと現実ではないということだから。そして私はドラマであって欲しくなかった作品集なのだ、この作品は。

 でもドラマを描かない羅川真里茂はもう羅川真里茂じゃないんだよなぁ。そういう意味では羅川ファンの私だけれど、向いてない作品だったのかもしれない。
 これからも変わらず羅川ファンではあり続けるのは変わらない。ただ羅川真里茂の良い所がはっきりした一方、限界も見えてしまった気がしてならない。

 やっぱり「朝がまた来るから」を読み返すとおもしろいのだ。そしておもしろいからこそこの気持ちの行き所の始末に困ってしまう。慈しむような優しさに満ちている作品だけれども、でもなぁ…。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2011-08-14 01:36:21] [修正:2012-01-22 22:12:15] [このレビューのURL]

 現在の大人でも楽しめる“シリアス”なアメリカン・コミックの流れを作ったのはDKRやウォッチメンとはもはや常套句と化したくらいよく言われることで。
 でもそれらは突然変異的に現れたわけじゃあない。ジャック・カービーとスタン・リーのX-MEN、そしてこのニール・アダムスとデニス・オニールのGL/GAなどの先駆けがあった。
 
「怪物やマッド・サイエンティストばかりが悪ではない…やっと気付いた」
 
 X-MENのさりげなさとは違って、特にこのGL/GAはヒーローを正面切って社会問題に向かわせたという意味で、より後の作品に与えた影響は強かったかもしれない。上の台詞が示すように、何せこの作品でグリーンランタンとグリーンアローが立ち向かうのはただの“悪者”ではない。薬物問題、人種差別、環境問題、エコテロリスト、ネイティブアメリカン問題、など“敵”が明確には見えないものばかりだ。

「もはや世界を白と黒に分けることはできない。…中略…グリーンアローの言うとおり、もはや権力が正しいとは言えない世の中だ。ならば何が正しいんだ。」

 GL/GAが生まれた1970年代というのは様々なことで世界が揺れた時代だった。もはやかつてヒーロー達が第二次世界大戦で活躍を見せていた時代のような一方的な正義と悪では、大人の読者は納得しきれなくなっていたのだろうか。そう、もはや権力が正しいとは限らなかった。
 そんな激動の社会の中に、優等生で生真面目なグリーンランタン(ハル・ジョーダン)とシニカルな自由主義者であるグリーンアロー(オリバー・クイーン)という、正反対のコンビが放り込まれる。

 彼らは悩み、そして力では本質的な社会問題の解決など出来ないことを思い知らされる。それでも、どんなに辛くても二人が目をそらすことはない。だからこそ彼らはヒーローであり、目をそらさないことの大事さを教えてくれる。目をつぶってしまっては何も見えないし、先には進めないのだから。そんな葛藤を受けての回答が本作でも随一の傑作である「たった一人でなにができる?」でありウォッチメンの結末でもある。
 同時に連載ものの限界も所々見せてしまってもいる。彼らはヒーローをやめるわけにはいかないし、どこかで話に救いをもたせないといけないわけで。でもそもそも子供向けとされていた作品ということを考えれば仕方がないし、だからこそ読みやすいし重くなりすぎないのだ。

 それぞれの短編で異なったテーマが鋭く掘り下げられている一方で、シリーズを通して進んでいくサイドストーリーもある。例えばハルとキャロル、またはオリーとブラックキャナリーの関係性は少しずつ変化していくし、オリーの怪我は後の短編に影響を与えていく。
 そのようなサイドストーリーと何よりハルとオリーという正反対の、正反対ゆえの魅力的なコンビがこのシリアスな話の内容を明るく彩る。二人の珍道中という面でもすごく楽しいし、何といってもオリーがかっけぇ!本当にいいキャラクターしてるよなぁ。大好きになっただけに、今度のリランチで若々しくなったのはちょっと残念だった。髭もないし…。

 GL/GAはアメコミの記念碑的な意味でも、また現在の視点で見た単体の内容をとっても間違いなく傑作といえる作品。二人が立ち向かった問題は今でもなくなったわけではないのだから。薬物問題なんかは言うに及ばず、エコテロリストの話で、どっかの某対捕鯨テロリストの姿が浮かんできたのは私だけではないと思う。
 出来ることなら中学生くらいの子どもにも読ませたい作品なんだけどなぁ、今のアメコミ事情を考えると現実的ではないのが残念な所。学校の図書館に一冊くらい置いておいてもいいんじゃない、なんて思うのだけど、どうだろう?

ナイスレビュー: 0

[投稿:2011-09-20 12:47:15] [修正:2012-01-22 22:10:33] [このレビューのURL]