「boo」さんのページ
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「闇夜に遊ぶな子供たち」の続きも読みたいけど、出ても同人になりそういうのは実に残念な話。
ホラーMがなくなったのはやっぱり痛い。
10点、9点…個人的なバイブル、名作。
8点、7点…お気に入りの作品。
6点、5点…十分楽しめた作品。
4点以下…うーんって感じの作品。わりと適当。

6点 四月は君の嘘
機械のような演奏をすることで知られていた元天才ピアノ少年が、自由奔放な天才美少女ヴァイオリニストに出会う。そしてもう一度演奏家達の世界へ!…というボーイ・ミーツ・ガールもの。
まあ上手い。超絶上手い。めちゃくちゃ上手い。前作「さよならフットボール」からさらに進化して、新川直司は盛り上げる技術に関してはもう今の漫画界でも随一くらいのレベルに達してんじゃないかくらいに思った次第。
だってもはやこの人、話を盛り上げるのに大した物語を必要としてないわけで。例えば、かつて主人公・有馬がコンクールに出場していた時に彼の影に隠れていたライバル二人のお話。当時有馬が全く自分達のことを見ていなかったこと…この単純な“思い”だけで、新川直司はいきなり登場した二人の演奏を下手な漫画のクライマックスくらいの勢いで盛り上げてしまえる。しかもたった三話でだぜ? とんでもない。
ぱらっとページをめくってみるだけで、執拗に過去のフラッシュバックやモノローグが何度も挿入されているし、視点は一人称で進んだりまた複数の視点が同時進行したりところころと変わるのが分かる。そして何よりもすごいのは、それだけ凝りに凝ってかつスピーディーに技術を詰め込んでいるのに至極読みやすいんだよなぁ。だから上がって上がりきったキメの場面ではぞわっと鳥肌がたってしまう。
また明らかなボーイ・ミーツ・ガールものなのに、少年とヒロインがあんまり恋愛の方に進まなさそうというのはおもしろい所。多分二人は恋愛とは違う所でつながっていくのだろう。「君は君だよ」というヒロインの台詞で救われた少年の思いは分かる。じゃあヒロインの少年への思いは何なのだろう…。
主人公の過去へのトラウマとか、ヒロインの病気とか、幼馴染との関係性とか鉄板な設定を詰め込んでいる一方で、「四月は君の嘘」という意味深なタイトルや闊達さに似合わずヒロインの謎めいた雰囲気はミステリーとしても中々におもしろくなりそうな気配。だって未だにヒロインが何故こんなに主人公にこだわるのか分からないのだ。読ませるなぁ。
ただ今の所、まだ技術的には凝りに凝ってる作者が物語の方にその気持ちを傾けられるかはよく分からない。大した物語がなくとも瞬間的には沸騰させてしまえる人だけになおさら不安な気がしないでもなくて。しかし物語が上手く折り重なって、そこに新川直司の技術が乗ってくればどんなにカタルシスが得られるのか…楽しみに待ってます。
追記
・「君は君だよ」の“君”って何だよとか多少意地悪な突っ込みもしたくなる部分も多いのだけれど、そこはあくまで少年漫画だからしょうがないとも思う。
・そういう意味では自分探しものとしてやっぱりモテキのあくまで前向きでしかもはっきりとしたラストは秀逸だったよなぁと今さら。
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[投稿:2012-06-11 00:38:22] [修正:2012-06-15 00:43:59] [このレビューのURL]
6点 BABEL
全ての情報がビブリオテックという電子図書館に集積・循環される近未来。ビブリオテックは人々の知的創造の場としてなくてはならぬ場であった。しかし、ビブリオテックの電子図書にはパランセプトという原因不明の不具合が表れる。
主人公・オレッセンはビブリオテックの修復に従事するようになり、かつて父親の“消失”に関わった一つの書物の謎に迫っていくことになって…。
かつて人々は同じ一つの言語を話していた。人々がバベルの塔という天まで届く塔を建て、神に挑戦しようとしたことが原因で、神は人々に違う言葉を話させるようにした。というのがバベルの塔の大体のあらすじ。
想像するに、“かつてバラバラになった宇宙の全ての断片(情報)をビブリオテックに集めてしまえば、再び一つであったもの(アカシックレコード?)を復元できるのではないか? それは神へと至る道なのではないか? しかしそれではもう一度神の怒りに触れることにならないか?”…そんな期待と逡巡に満ちた人々のまなざしがこのBABELというタイトルからは感じられる。
私達は莫大なメッセージを送り続ける一方で、伝えられなかった思いは何処へ行くのだろう。記録されなかった情報の行方は?
まだまだ1巻は多くの示唆に満ちたプロローグに過ぎないのだけれども、圧倒的におもしろそうな匂いがぷんぷんしているわけで。新しくてなおかつ独創的。SF好きはもちろん、本好きをも惹き付ける神話と現代を上手く融合させた非常に魅力的なストーリーになる予感。
独創的とは言っても奇想を狙っているのではなくて、重松成美には物語りたくてしょうがないものがあるんだろうと思う。前作は「製本」の物語だったのだけれど、製本から一転して近未来の電子図書を扱うこのBABELにも変わらない気持ちが感じられる。本を読むこと・読み解くことへの強い思い、本に込める心、紙の本への郷愁を。
テーマや舞台設定からはサイバーパンク寄りになるのかなと思っていたら、ファンタジーの色が強いのには正直面食らった。現実の延長戦上の世界観が強いだけに。
少しデッサン調で精緻な絵柄なのでファンタジーとの相性も良さそうなのだけれど、この期待感と言うのは紛れもないSFのものなわけで。でも神話とSFを結びつけるのにはかなりの脚本の力が必要とされるだろうなぁとも思うわけで。理論立てたSFになるのか、肌で感じるファンタジーになるのかは分からないけれど、そこらへんの折り合いをどのようにつけていくのかもこれからの楽しみな所。
と色々書いたけれど、まだ期待感が先行しているというのが正直な所で。でも1巻でここまで期待させてしまえるというのはやはり物語りたいことのある人の強さだよなぁ。後はそれがどんな脚本で、どんな語り口で語られるのか…。イティハーサのように新たな神話が作られるんじゃないかと最高にわくわくしています。
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[投稿:2012-05-31 12:17:49] [修正:2012-05-31 12:19:11] [このレビューのURL]
グラント・モリソンの月刊バットマン第三弾。今回はヒーロークラブの会合で起こった殺人事件と、バットマン・アンド・サン直接の続編である3人の偽バットマンについての物語が描かれる。そしてどうやら双方の裏にはブラックグローブという悪の秘密結社が関わっているようで…。
まずは前半のヒーロークラブのお話。50年代のバットマンコミックから色々引っ張ってきたものらしく、その元ネタはおまけとして本書の最後に収録されている。こちらは総じてとっつきやすい素直に楽しめる作品。
孤島という隔絶された空間で起きる殺人事件。「そして誰もいなくなった」を筆頭としたミステリーの王道といえるジャンルにモリソンはバットマンとロビン、そしてバットマンにインスパイアされた世界各国のC級ヒーローたちを放り込む。謎解きという面ではありふれてはいるものの、とにかくアイデアがおもしろいのでぐいぐい読まされる。
またアートも非常に良い。安穏としていた時代である50年代のヒーローたちの中に現れる殺伐とした現代のバットマン。その異質・異様な雰囲気が巧みに表現されている。モリソンのテクニカルな演出やコマ割りも多少分かりにくい部分もあったものの上手く機能していた。
そして後半の、前作から続く3人の偽バットマンのお話。モリソンの癖の強さが全面に発揮された趣向。
現実と幻想。生と死。過去と未来。催眠と瞑想。目まぐるしく様々な世界が行き来する。モリソンの真骨頂とも言える魔術的で意味深なライティング。夢幻のようにこれまでの伏線は回収され、さらなる謎が散りばめられていく。ブラックグローブとは何者なのか?
「お前はもうすぐ死ぬ」
バットマンに何が起こるのか? 未来に何が待っているのか? その未来ではダミアンがバットマンになるのだろうか? 万華鏡のように色んな面が移り変わり、世界は混迷を深める。…盛り上げるぜグラント・モリソン!
ただ、やっぱり私はモリソンとはあんまり相性良くないかもなぁ。もう一つぐっと来ない。幻想の描き手としてアラン・ムーアと比べてしまっている部分もあるのかも。
モリソンはムーアと同様魔術師を名乗っているだけあって、ムーアと同じく色んな所から設定やらモチーフを借りてくるのは得意にしている。ただムーアとモリソンの決定的な違いは、ムーアはヒーローやら切り裂きジャックやらクトゥルフやら借りたものを完膚なきまでに自らの世界に沿って作り変え、利用しつくしてしまう所で。あくまで象徴主義的な範囲に留まっているモリソンは独自のサーガを作り出す魔術師という点で、今の所物足りない部分は感じないでもなかったり。
まあでも何だかんだ言って、モリソンのライティングに今ひとつ馴染めないのは浦沢直樹に原因がある気がしないでもない。だってさ、ここ最近ずっと浦沢直樹の作品では、壮大かつ意味深に黒幕を引っ張って引っ張って結末に進むにつれてあれ?…みたいなのが繰り返されてきたわけじゃないですか。
そういう意味で、浦沢作品と共通点のあるモリソンのライティングには事前に免疫みたいなのが反応しちゃってんじゃないかなと。R.I.P.には、そんな浦沢作品の負の遺産をぶち壊してくれる第一部のエンディングを期待してます。しかしまだまだ引っ張られるんじゃないかという予感。
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[投稿:2012-05-16 23:41:13] [修正:2012-05-17 11:00:53] [このレビューのURL]
6点 prism
普段あんまり百合を読む機会ってないのだけれども、ツイッターのTL上で評判が良かったのでついつい買ってしまった漫画。ぱっと思いつく印象的な百合は、志村貴子「青い花」や中村明日美子の短編くらいという百合初心者未満の戯言と思って読んでやってください。
とりあえず読んでみて思ったのは、ちょっと驚くくらい全く抵抗感がないなってことで。まあでもそれは当たり前なのかもしれない。結局自分の性とは異なるわけだから、男同士がいちゃいちゃしてるのに幻想は抱けなくても、女の子同士がいちゃいちゃしてるのに幻想は抱ける。実際、百合ってジャンルはBLと比べるとかなり男が占める割合は大きいんだろうと思うし。
高校に入学した恵は、今度こそ絶対いい恋をするんだ!!と決意していた。彼女は小五の夏休み、海で出会った子との初恋が忘れられず、なかなか恋が出来ないでいた。そんな恵だが、入学式でその初恋相手、光と奇跡的に再会を果たす。ただし光は男の子ではなく、綺麗な女の子だった…。
「放浪息子」や「きのう何食べた」のようにマイノリティの苦しみも作中に盛り込む方向性ではなく、どうやら「青い花」のように繊細な女の子同士の感情や関係性の変化を中心に描く作品になるようだ。女の子同士の付き合い(百合ップルと言うらしい笑)が露見しても、そんなに拒否反応も起こさずに皆さん理解してくれているみたいだし。
物語自体に目立つ部分はそんなにない。光と恵がお互いを好きになって、付き合うことになり、イチャイチャしたりする…そんな取り立てて特筆することもないお話がこの一巻では瑞々しく語られていく。
ただし、東山翔は物語の語り口がべらぼうに上手い。女の子同士の魅力的な会話に、ここぞという時の透明感のあるナレーション、恵と光の心の距離感の変化を繊細かつスピーディーに魅せる構成、細かい視線や表情で心情を語る描写力、全てがありふれたお話をきらきらに変える。
また決して画力が高いわけではないんだけど、すごくイチャイチャが官能的。ここらはやはりエロ方面でも活躍している作家ゆえか、匠の仕事です。
胸を描くのが上手い作家(鶴田謙二とか)やお尻を描くのが上手い作家(桂正和とか)はそれなりにいるけど、ここまでキスを描くのが上手い作家は記憶にないなぁ。植芝理一や森薫のようなフェティッシュなエロさでもなく、高浜寛の切ない大人のエロさでもなく、心をぎゅっと掴まれる官能的なエロさ。これは見る価値はある。
これをきっかけに百合に耽溺するつもりはないけれど、十二分に満足させてもらった。全然一般の方でも大丈夫だと思う。けっこうゆっくり連載しているみたいなので、今くらいのテンポでさくさく進んでくれるのを期待してます。百合にちょっと興味がある方は特におすすめ。
しかし結局百合って何なんだろう、とちょっと気になってる私は実は百合にはまりかけている気がしないでもない。
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[投稿:2012-04-25 00:55:19] [修正:2012-04-25 00:55:35] [このレビューのURL]
ヤマシタトモコの短編はおもしろい。少ないページ数の中でぱっと惹きつけて、クスっと笑わせて、ばっさりと終わる。短い時間でもしっかり楽しませてくれて、なおかつ後に引きずらない。私が短編漫画に求めていることが過不足なく揃っている気がする。
そんなヤマシタトモコのピリっとした鋭さは、このミラーボール・フラッシング・マジックでも存分に発揮されていた。
特に表題作の「ミラーボール・フラッシング・マジック」が秀逸。一つのミラーボールを巡る連作ものなのだけれども、まさにミラーボールのようにギラっと光っては回転し、新たな面に光が当てられていく。その一瞬の光がとにかく強烈で、でも一瞬後には何も残らない。そのくらいスピード感のある鮮烈な読み心地。
またオチが素晴らしくくだらなくてねぇ。そして手法的にも巧いのに、巧い!とは言いたくない絶妙にしょぼい雰囲気が良い感じ。素敵な奇跡の話でした。
これに限らず、コメディカルな話に関してはさすが今ノリに乗ってるヤマシタトモコという感じで。「エボニーオリーブ」なんて、女3人のぐだぐだなガールズトークがこうまでおもしろい物語に仕上がってしまうんだからお見事というしかない。
対して、愛とか恋とか女とか、そっち系をメインにした話は正直あまり乗りきれなかったりして。どんどん一人称の語りで物語が進んでいくので、登場人物に興味もなく共感も出来なかった自分にとってはなかなかに厳しいものがあった。
またヤマシタトモコがこの短編集で描く女性はいつもにまして、生々しいので気持ち悪いと感じる人もいるかもしれない。女教師のわき毛を妄想する話があったり、描かれる身体が微妙にたるんでいたり、乳に静脈が浮かんでいたり…。私はそんな微妙にフェティッシュな感じがけっこう気に入っているのだけれども。
「ドントクライ、ガール」と比べると、テイストが色々なので正直好き嫌いが分かれると思う。私自身、短編によってかなり印象が違うし。
ただ何といっても、後に引きずらないので気軽に読めて楽しめるのがありがたい。意外にそんな漫画は少ないものだよね。また新しい短編集を出してくれたるのを楽しみにしてます。
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[投稿:2012-04-17 01:25:37] [修正:2012-04-17 01:25:37] [このレビューのURL]
現在の科学技術は既に失われ、すでにロストテクノロジーとして発掘・利用されるようになった未来。地球は魔物や獣人などが跳梁跋扈する世界に成り果てていた。そんな世の中で、美人で無口で冷静で超強い武器商人に命を救われた少年ソーナが活躍するダークファンタジーということで。
そういうファンタジーの世界観だけで見ると、全く目新しくない。ただ見せ方はかなりおもしろくて。
武器商人はテンガロンハットを被り、馬車で移動する。馬車の上で撃ちあって、ナイフ投げ合って、でも馬はゾンビなんだよね。要はこれ、ファンタジーなんだけど、ロードムービー風味の西部劇なのだ。多分こういうファンタジーはあんまりなかった。
武器商人のガラミィはソーナと共に街を巡る。彼らが目にするのは人間の暗部だ。街から街を巡るロードムービー。どんな街にたどり着いても、ソーナに見える世界はどうしようもなく腐っている。そして幻想文学に材をとった異形のものたちがいくら登場しても、何よりどうしようもないのは人間なのだ。
そういう腐った世界で、唯一よりどころになるのが“契約”であるというのも上手く機能している。上でガラミィはソーナの命を救った、と書いたが、正確にはソーナは金で刀を買い、母親(の幻影)を斬ることで生きることを選ぶ。もう初っ端からこの漫画は、子どもに子どもであることを許さないし、人間が一人で立たないことを許さない。ここらへんはかなりえぐいし、その後を追っていってもやっぱりこの漫画はえぐい。奴隷市場のくだりなんか特に。
でも怖いのも、弱いのも、そして時に強いのも、優しいのもやっぱり人間であって。そういう人間が描かれるからおもしろいし、それこそがダークファンタジーの肝なんだろう。久々に良質なダークファンタジー成分を補給できて満足した。
ただその一方で、やはりこの手の漫画はベルセルクで描きつくされてるのかな、と改めて思わないでもなくて。多分私がダークファンタジーに求めてるのは、とにかく心を抉って欲しいってことなのだけれども。心を抉るってことは要は漫画の境界をどうにか踏み越えてほしいということで、その点でベルセルクの黄金時代編に及ぶものはないだろう。
牙の旅商人は絵も語り口も格好良すぎて、そういう意味では抉る直前で上滑りしてしまった。私がこの漫画に期待しているのは、ヘルシング的な格好良さじゃないんだよなぁ。ただそんな格好良さが色んな所から材を採りすぎてぶれぶれな世界観をどうにかごまかしてんじゃないかというのはあって。その一方で、ロードムービーとしては世界がぶれまくってくれた方が楽しいなぁと思ったりして。
そんな疑問もありつつ、ファンタジー好きにも、ちょっと甘いファンタジーは苦手かなという人にも十分おすすめできる漫画だった。おすすめ。
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[投稿:2012-03-31 00:36:13] [修正:2012-03-31 01:02:52] [このレビューのURL]
6点 バットマン:ノエル
ディケンズのクリスマスキャロルをモチーフにしたということで、他のバットマンものとはかなり趣が違う。実はジェフ・ローブもハロウィンスペシャルで同様のことをやっているので、アメリカではわりとメジャーな手法ではあるのかもしれない。
クリスマスキャロルといえば超有名な古典なので、大体の方が大まかなストーリーは知っていると思う。傲慢、冷酷、強欲、愛や慈悲に欠けた男スクルージの前に、過去現在未来の3人の精霊が現れ、改心したスクルージは自分と未来を変えようと決意するのであった…。というあれです。
私も子どもの頃に読んだことはあって、ただけっこう前のことなので内容は忘れかけていたのだけれども。ノエルを読めば読むほどにああ、こんな話だったな、と思い出していった。要はモチーフというか、基本プロットはほぼクリスマスキャロルそのままってことで。
読んでいて巧いな!って思ったのは過去の精霊であるキャットウーマンの章。バットマンオリジナルコミックを読んだ人は分かると思うのだけれど、ミラーのDKRがバットマンを変えたというのは決して大げさな言葉じゃなくて。ペンギンが傘で空を飛んでたり、スーパーマンがヘリに吊るされて滝にうたれたりという時代があったわけです。そしてそのオリジナルコミックの中には確かにキャットウーマンとバットマンが仲良く追いかけっこしていた話もあった。マスク以外の服と武器をとりあげ、バットマンを猛獣に追いかけさせるという衝撃の話が。
「昔は違った。昔のあなたはこうじゃなかった。」…ゴールデンエイジへの郷愁と現在の重苦しいバットマンコミックへの複雑な気持ちを感じさせる、なかなかにぐっとくるお話だった。
ただ現在と未来の章に関しては、うーむ…。
ベルメホの、色んなバットマンコミックがあって良いと言う言葉にはもろ手を挙げて賛成するし。クリスマスキャロルを意識してか、バットマンやゴードン、アルフレッドといったキャラクターのイメージがかなり他作品と乖離しちゃってるのも構わない。ただし、そうであるべき確たる理由が感じられればってことで。個人的にはあまりクリスマスキャロルにバットマンをそのまま当てはめる意図を読み取れなかった。ゴッサムという街であっても、ボブやブルースでさえも幸せになりうるのかもしれない。しかし違和感のせいかバットマンのお話としてすっと心に入ってこない。
ベルメホのアートには全く文句のつけようがない。この人のペイントは、写実的でありながらも、陰影のつけ方や光の取り入れ方絶妙で、何とも言えない魅力的な雰囲気を醸し出す。絵が濃いので多少好みは別れるかもしれないけれど、本当に素晴らしい。
多少疑問に思う点もあるけれども、バットマンの可能性を感じさせる良作だった。値段もアメコミにしては控えめなので興味がある人はぜひ。
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[投稿:2012-03-27 18:59:15] [修正:2012-03-27 18:59:15] [このレビューのURL]
6点 スマグラー
役者を目指していた主人公が、甘い話に騙され多額の借金を負うことに。彼が高利貸しに紹介されたバイトは死体を運ぶ「運送屋」だった…。
真鍋昌平といえば「ウシジマくん」の漫画家さん。スマグラーはデビュー作らしいのだけど、映画化を機に新装版が刊行されたということで。
もちろんデビュー作なので、現在と比べると絵も話も少し粗い部分も正直あって。でも真鍋作品の陰鬱さとそういう粗さの相性は決して悪くはなかった。そしてウシジマくんと根底に流れるものはやはり同じように思える。
ウシジマくんを読んだ人なら分かると思うのだけれど、この人の作品は本当に陰鬱。拷問シーンのようなエグい場面や人間のどうしようもなさをこれ程までかとぶち込んでくるので、読んでいるとどうしても落ち込まざるをえない。
エログロナンセンスとかそういう良い意味での悪趣味ではないんだよなぁ。ただただ糞ったれな人生を生きている糞ったれな奴らの姿を見せられて。それが面白いのかというと、正直分からない。でもスマグラーを読んでいて目が離せないのは、確実にその糞ったれな奴らと自分につながる部分があるからだ。下手をすれば自分だってこんな糞ったれな人生に転落しうるというリアリティがあるからだ。だからこそ他の漫画にはない生々しい嫌悪感を感じてしまう。
香港マフィアや日本のヤクザはいかにも…って感じなんだけどね。極め付きに中国の殺し屋二人組みまで登場しちゃう。ここらへんザ・漫画なのだけど、それでも独特の雰囲気を醸し出していて決してリアリティは失われない。ウシジマくんにも共通する変なバランス感覚は相変らずだなと思ったりして、なかなかおもしろかった。
真鍋昌平が描く人間は本当にどうしようもないのだけど、どうしようもないだけでは終わっていない。どうしようもないなりにどう生きるのか…この人の人間へのまなざしは決して虚無的ではないし、結末にも作者のそういう部分は表れていたように思う。
ただそんな物悲しいハッピーエンドもあまりに生々し過ぎる嫌な空気を払拭できたかというとそうではなくて。これを刺激と捉えられる人にはたまらない作品なのかもしれないけれど、あまりに生々し過ぎて個人的には難しかった。ただ同時に作者は刺激とは感じて欲しくないんだろうな、とも思った。悪趣味なだけという作品では絶対ないので興味がある人は一読をおすすめ。
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[投稿:2012-03-10 00:27:57] [修正:2012-03-10 00:28:57] [このレビューのURL]
6点 森薫拾遺集
フェローズの企画ものを中心に、福島聡との共作やら普通の読みきりやら森薫のここ10年弱ほどの短編が収められています。まあ短編は6割ほどで残りはイラストやらサイン会ペーパーなどの諸々。とは言ってもおまけであろうここらへんにも気合入りまくりなので見応えは相当なもの。裏の第何刷とか書いてる所にイラスト載ってるのはこの人の作品くらいだと思う笑。
森薫という漫画家さんはそもそもフェティシズム色の強い作家なわけですが、短編ともなると物語性が少なくなる分、森薫のフェティシズムがより抽出された内容になっています。相も変わらず、(悪い意味ではなく)強烈に自身の性癖を押し付けてくるもんだから、こちらも有耶無耶のうちに首肯してしまうというか。こちらが好きって言うまでしつこく「好き?好きでしょ?好きだよね?」と聞かれ続ける感じというか。
十八番のメイドものはもちろん、水着、眼鏡、バニー、ぶかぶかの制服…などなどそのテーマも多彩。ここらへんは個人の嗜好によって好きなのはかなり変わってくると思う。私が特に好きなのは「昔買った水着」と「見えるようになったこと」あたり。水着と畳にはやられました。後者は森薫の貴重な現代もの。
またこの作品集を読んでて感じたのは本当に上品だなってことで。これだけ押し付けがましくて強烈なパワーなのに、上品なフェティシズム。これは最近BL系出身の作家にも感じることだけど、森薫は他と隔絶してると思う。もはや気品が漂っちゃってるあたりがすごい。女性ゆえなのかとも思ったけれど、岡本倫あたりを考えてもそれだけではないんだろう。変だけど、やっぱりすごい人だ。
サイン会ペーパーやらイラストやらも読んでて楽しいです。正直コルセットや暖炉なんか微塵も興味はないんですよ。でもこれだけ愛に溢れてれば、魅力的に見えてきて困ったもの。本当に“好きこそものの上手なれ”を地でいく人だなぁと。またペーパーの後書きネタは爆笑しました。まあぶっちゃけこの作品集も後書きの方が…っていうのは多分嘘。
ということで森薫の魅力を存分に堪能させてもらいました。森薫好きなら買って損はないです。短編以外もおもしろいので迷ってる方はぜひぜひ。
後シャーリーの新しい短編が収録されてないってことは2巻が出るってことですよね?期待して良いんですよね森先生? 楽しみに待たせて頂きます!
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[投稿:2012-02-28 23:57:03] [修正:2012-02-29 23:53:39] [このレビューのURL]
6点 WE3
グラント・モリソンといえば頭がおかしいという話をよく聞く方。宇宙人に誘拐されたとか、自身のコミックの売り上げを上げるためにファンに同じ時刻にオナニーをさせようとするとか、魔術師としてムーアと張り合うとか、色々ネタにされてます。実はアーカム・アサイラムをまだ読んでない私はこれがモリソン初体験。
WE3はDCのヴァーティゴという作家性の強い作品を中心に扱う大人向けのレーベルから刊行された。
生物兵器に改造され、さらには廃棄処分にされそうになった三匹の動物達の逃亡劇。彼らの友情、そして悲哀が描かれていく。
タイトルが似ているのと3匹の動物達の話ということで、どうしても比べたくなるのが手塚治虫のワンダースリーなのだけれども。まあ多分偶然の一致だとは思う。基本的に全然違う話だし。
ただワンダースリーを読んだ者としては、大森望さんの帯にある“もうひとつのW3”という言葉にはなかなかぐっと来るものがあるなぁ、と。そして読んだことのない人にとっては何のことやらだろうなぁ、と。気になった方はW3の方もおもしろいので読んでみたら良いかと。
モリソン自身も後書きで語っているように、ストーリー自体はものすごくシンプルで分かりやすい。ただ安易にお涙頂戴に走らないモリソンの演出はすごく好みだった。明らかに感傷的なお話なのに硬派な雰囲気。下手な作家だったらかつての飼い主のエピソードなんか入れそうなものだけど、そういう余計なものは一切ない。
もしかすると人によってはあっさりすぎると思うかもしれない。でもそこが良いのだ。削ぎ落とされたからこそ生まれるものというのは確実にあって、だからこそWE3の勇気や友情、悲哀というものが心に沁みる。
結末も良かったなぁ。全体的にWE3に出てくる存在って色々矛盾してると思うわけです。動物達を残酷な生物兵器にしちゃった博士なのに誰よりもその動物達を愛しちゃってるとか。人が死なないために作られた生物兵器が人殺しまくりだとか。イイイヌ、ヒト、タスケル、なんて言いながら人殺しまくりのイヌとか。動物達のほのぼのとした会話に心が動いた次のページではやっぱり人が死にまくりとか。善人と思われる人が間違ったことをしちゃったり。生物兵器を利用してきた人が見せる優しさだったり。
そんな善悪が混沌としている世界で、3匹が間違いなく勝ち取ったもの。簡潔ながらもそれがラストにはぎゅっと詰まってたように思う。正直ほろっと来ました。
クワイトリーの緻密なアート、そしてモリソンの大胆な画面構成というのも見応えがあった。導入部の静かな緊迫感や、また弾丸が体を貫く時の3Dを思わせる演出には思わず息を呑む。モリソンが超自画自賛してた程かどうかは知らないが。
ヒーローものでもないし、ちょっとアメコミを読んでみたいなという方にもおすすめしたい良作です。ただ文法的に漫画により近いのはキック・アスかもしれない。
けっこうえぐいのに動物愛がしっかり感じられるあたりもおもしろい。3号(ウサギ)のウンコ爆弾には思わず胸がときめきました。やっぱりボッコ隊長といい自分はウサギ派ですね。
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[投稿:2012-02-18 13:22:13] [修正:2012-02-18 13:22:13] [このレビューのURL]
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