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総レビュー数: 258レビュー(全て表示) 最終投稿: 2007年06月29日

7点 ONE PIECE

普通におもしろい。
確かに海賊か?と思うのは分からないでもないけど、ココと同様現実の海賊じゃなくて空想世界の海賊なので構わないでしょう。ヴィンサガの海賊については史実のバイキングなのできちんと調べて正確に描かなきゃいけないのは当然だけどね。
既成の物を新たに作り直すのは難しいことで、むしろ尾田さん独自の新しい魅力的な海賊像を作れてるのはもう少し褒められても良いはず。

ファンタジーで重要な要素の一つにその世界観が挙げられると思うが、これは秀逸。グランドラインという設定を軸に世界の成り立ちや独特な国々などうまく色んなものを消化して表現できているように思う。
何気に他の借り物になってしまいがちなファンタジーの世界だが、ドロヘドロやナウシカ、ハンハンなどと同様にオリジナル性豊かですばらしい。
個人的にはこの点だけでもかなり評価は高い。

個性豊かなキャラクターも魅力的だし、王道のストーリー展開も人気が出るのはうなづける。伏線を張るのは上手いと言うよりとりあえず謎をばらまいてる印象だけど気になるのは確かなのでOK。
長所はこのくらいだけど私の中では十分8点には値する漫画。

多く方が仰るように色んな欠点はある漫画なのであまりにも気になる方は厳しいだろう。キャラの扱いや行動、設定、絵が見難いこと、章によっての質の落差など上げればきりがないからだ。基本的に少年漫画というジャンルは減点評価するととたんに楽しめなくなってしまうしね(ハンターハンターやジョジョはむしろ少年漫画を読み込んできた大人向きの例外)。
シャカリキやエアマスターのように矛盾や欠点までをも熱さに変えてしまうパワーはないにしても、補って余りある魅力はあると思う。そもそも週刊連載してる時点で上質なストーリー展開や設定等の細かい整合性を求めるより少年に戻った気持ちで素直に読んだ方が楽しめるはず。
キンニクマンの作者、ゆでたまごはこんなことを言っている。「細かい設定に拘っていると、結果としてつまらなくなってしまう」「ツッコミ所が多い方が、読者が親近感を持ってくれる」
少年漫画はそれでいいんじゃないかな。細かいことを気にして縮こまってしまった漫画よりも多少破綻があっても読者に愛される漫画の方がいいでしょ。完璧な作品なんて滅多にないから。

レビューの修正と1点減点
冷静に考えると私的には7点くらいかなと。後もう少し言いたいことがあったので書き足しました。
減点の理由は最近の魚人島編がつまらなかったり魚人島150キロもあるはずないよねとかの突っ込み所で戦争編からの確変終わったなと思ったから…、ではなくてワンピースのドームツアーに行った直後でテンションが高い状態で書いたレビューだったから。友達の付き合いで行ったんだけどこれが存外おもしろかったんです。すいません。

ナイスレビュー: 2

[投稿:2011-07-04 03:56:03] [修正:2011-07-21 23:26:46] [このレビューのURL]

いやあ、笑えますねこの漫画。
毛色としては一番今日から俺は!に近いんじゃ
ないかと思うけど、あれほどくだらなく(いい意味で)
はないです。

きょうから俺は!は高校生活はいつまでも終わらないし
俺らはいつまでも変わらないぜというある意味高校生のとき夢だったような雰囲気だけど、
お茶にごす。の場合はいつかは終わるものであって、だからまーくんも成長するし、部長への恋も何らかの決着がつくんでしょう。
ちょっと切ない。

やっぱ作者も年取って経験つんだんだなあって感じです。
画力は上がってるし、ギャグは及ばないにしても総合的にはきょうから俺は!に匹敵するんじゃないかと。

ギャグオンリーじゃないからこそおもしろさが下がる可能性
もあるけど上がる期待も大きい。
連載中だしとりあえず8点。

「おまえのあごは青かった」には腹が痙攣しました。

追記
良い最終回でした。
見事にお茶にごしてくれましたね。
最後までテーマがぶれなかったのが良かったなあ。

ナイスレビュー: 2

[投稿:2009-01-07 10:23:09] [修正:2011-07-11 00:17:22] [このレビューのURL]

 いきなり失踪してしまった幼馴染の早川さん。霊感のある主人公はなぜかその早川さんの霊に付きまとわれることになるのだった。

 で、そんなこんなで主人公はどんどん怪奇な事件に巻き込まれていくことになるのだけれども、内容としては新しいことをしてるわけではなくて。遊園地の幽霊だったり、秘教を崇拝している島であったり、そこはかとなく既視感を感じてしまう舞台設定。80年代に戻ったかのような直接的なスプラッタ描写や胡散臭いオカルティックな話はちょっと前のB級ホラーや怪奇漫画を想起してしまう。また少女漫画テイストな絵柄やその作風だって、伊藤潤二、高橋葉介、諸星大二郎といった大御所たちが背後に見える気もする。

 ただそれがまた安心するというか。怖いかというとあんまり怖くないのだけれども。こんな血まみれで逃げ回りまくりで無残に殺されるド直球なスプラッタだったり、苦笑すれすれのオカルトだったり、古典的な仕掛けのホラーが面白く読めるという喜び混じりの驚きがあって読んでいる時は本当に楽しかった。
 ひよどり祥子の面白さというのは、そういう古典的なホラー漫画だったり映画だったりのエッセンスを取り込んで、現代風にうまくリファインできる所にあると思う。とかいうのは簡単だけれど、めちゃくちゃセンスが良いよなあ。またとにかく女の子が可愛いもの。何しろ古来より美少女に適度な臓物成分さえあればそれだけで読めるというのは証明されているのだ。

 この作品集ではむしろ異色なのかもしれないけれど、随一で面白かったのは「いるのにいない同級生」。すっと同級生が薄くなるビジュアルは衝撃的。何より唯一といっていいほど怖い。奇想の意味でも実に好みだった。
 ひよどり祥子らしさは物語よりもむしろキャラクターの可笑しみにあるのかもしれない。やっぱり委員長のキャラは強烈だよなあ。この先どんなひどい目にあってもタフに生き延びていく強さは憧れざるをえない笑。そして当然のように全女子生徒の写真を持ってる友人。一見普通のようで、ちょっと頭のネジが外れちゃってるような主人公。怖いのか可笑しいのか分からない事件の数々。寝る前に読めちゃうくらいのぞくぞく感と楽しさは他ではなかなか得難いよなあ。

 大作家たちのホラー漫画の系譜ってこのまま途絶えていくんじゃないかとなんとなくにでも残念に思っていた人は多いと思うのだ。ホラーMだって休刊してしまってなおさら怪奇ものには世知辛さを感じてしまうわけで。応援コメントの豪華さにもある意味そんな危機感が現れているのかもしれない。そんな中でひよどり祥子はさっそうと現れた救世主ですよ。
 しかしまだ1巻とは書かれてないんだよなあ。連載は続いているみたいだけれど2巻の刊行はまだ決定してない模様。ということで皆さんぜひ応援しましょう! ホラー漫画好きなら後悔しないから。おすすめ。

ナイスレビュー: 1

[投稿:2012-12-20 00:25:31] [修正:2012-12-20 00:25:31] [このレビューのURL]

 モーニングツーに掲載された9篇を集めた宮崎夏次系の作品集。デビュー作ということで、西村ツチカ、九井諒子、市川春子なんて最近のニューウェーブ系の流れに位置づけられるのかもしれない。そう言う意味では、もはやこの手の絵柄だけでは新鮮なんて感じることはできないのだけれども。

 でもこの作品はそういう新鮮とか新鮮じゃないとかいう次元の話では全くないよなあ。久々に漫画を読む楽しさを存分に感じさせてもらった。
 というのもこの作品、ストーリーだけ説明しても全く面白さが伝わらないと思うのよ。とにかくシュールで、荒々しくて、理不尽で、荒唐無稽で、とことん馬鹿話。あらすじを伝えても困惑させるかもしくは失笑させる自信しかないもの。作品集の最後を飾る「紙村のさわやかな変体」なんてクライマックスでオムツが空に飛んでいってしまう。他の短編も概ねそんなテイスト。

 ただこの漫画が凄みはそんなストーリーがやはりシュールで、荒々しくて、理不尽で、荒唐無稽な絵柄や語り口と合わさった時に、オムツが空に飛んでいく場面で泣けてしまうってことで。漫画において、これだけ絵と物語が不可分な作品を作れる人がどれだけいるんだろう。デビュー作でこれだけのものを作り上げてしまえるんだから、本当にとんでもないよなあ。
 いやあ、でも本当に理不尽だぜこれ。だって自分でも何でこんなに感情を揺さぶられているのか分からないのだ。宮崎夏次系は心底理不尽に、突然に、鮮烈に、登場人物の激情を切り取ってしまう。そして訳も分からないうちに震えてしまう。泣かされてしまう。そんなに本当にわくわくする漫画体験。

 特に個人的なお気に入りは「水平線JPG」「娘の計画」「成人ボム 夏の日」「飛んだ車」。「飛んだ車」のまさに車が飛んだシーンなんて脳裏に焼きついて離れないもの。他にも「娘の計画」の“なんで”だったり、「成人ボム 夏の日」の凝縮された3分だったり…宮崎夏次系は一瞬の感情を鮮烈に切り取って、私たちの脳裏に焼き付けてしまう。

 この人がストーリーだけ提供しても絶対にこれほどまでに感情を揺さぶられることはないってことは確信できるもんなあ。漫画であることにひしひしと意味を感じさせてくれる人は松本大洋を始め、ひと握りしかいないと思うのだ。ということで間違いなく天才の類だと思うので、一読をおすすめ。特に短編好きはマスト!

ナイスレビュー: 1

[投稿:2012-12-13 00:13:27] [修正:2012-12-13 23:50:43] [このレビューのURL]

 もはや大人気と言っていい有名サッカー漫画。

 色んなスポーツを取り扱った漫画があふれている中で、何でこの漫画を読むとこんなに実際に足を運んで地元のクラブチームを応援したくなるんだろうねぇ。実際うちの姉貴などはこの漫画を読んだのがきっかけで、勤務先に近いというジュビロ磐田のプチサポーターになってしまったそうで、J加盟クラブすらない私の地元からすると実に寂しく思ったりする(でも今年はJ2上がれそう!)。

 この漫画について語られる時に、監督が主軸にすえられているということに言及されることは多いと思う。ただかといって、監督の力で弱小チームを成長させ、巧みな戦術で痛快に敵チームをやっつけるというのがこの漫画の一番の面白みかといえば少し違う気がする。いやもちろんそういう面もありはするのだけれども。

 何というか、読む側をめちゃくちゃ熱くさせようとはしていないんだよなあ。例えばORANGEはフロントやクラブのサポーター、J2の経営問題を物語に絡めた初めてのサッカー漫画だったかもしれない。ただその中でもやはりORANGEには武蔵という確固たる主人公に軸があったわけで。私たちはサブのキャラクターたちやストーリーに焦点が当てられる時があったとしても、大活躍する武蔵にこそ感情移入したし、熱くなった。

 しかしジャイアントキリングにおいては、監督である達美に感情移入することは驚くほど少ない。何しろ何を考えてるのかよく分からないのだ笑。そして代わりに私たちは、選手達でありサポーターでありフロントに感情移入することになる。もちろん彼らだって一様じゃない。ベテランがいれば若手がいる。試合に出る選手がいれば出られない選手もいる。移籍する選手もいれば移籍してくる選手もいる。現役ばりばりの若いサポーター集団がチームを支える一方ETUが強かった頃のサポーターだって戻ってくるし、ずっとスタジアムに通い続けているじいちゃんサポーターがいれば、小学生のサポーターもいる。社長、広報、スカウトといったフロントがいる。記者やスタジアムを管理するおっちゃんだっている。
 ここに脇役というのは存在しない。ETUという一つのクラブを巡って、選手からサポーターまで様々な立場の人々の視点で群像劇が少しずつ語られていく。しかし必ずしも彼らの物語が交差するわけじゃない。でも彼らはどこかでつながってETUというクラブを構成していく。

 一人に深く没入するわけじゃないので、ORANGEみたいにめちゃくちゃ熱くなれるわけではないのだけれど…。でもだからこそジャイアントキリングは、単一の視点ではなく様々な選手たちやサポーター、記者等たくさん視点でETUを眺めることで多角的に確固たる一つのプロサッカークラブの姿が浮かび上がらせることに成功している。そんなたくさんの視点が集まる試合だからこそ一つの試合であってもその重さと勝利する喜びが分かる。だからこそ実際に足を運んで地元のクラブチームを応援してみたくなる。

 サッカー好きはもちろん、特に興味のない人にもおすすめ。うちの姉貴みたいにサッカーの魅力に気付かされることになるかもしれない。要はサッカーの面白さというより、プロサッカークラブの面白さを分からせてくれる漫画なのだ。実はかなり新しいスポーツ漫画だと思うので読んでない方はぜひ。

ナイスレビュー: 1

[投稿:2008-07-22 22:53:44] [修正:2012-11-06 23:26:56] [このレビューのURL]

 久正人による世界中の異形を集めたクロスオーバーコミック。

 米軍によって集められ、隔離された世界中の異形を集めた街であるエリア51。そんな危険な街で探偵家業をこなす真鯉徳子は河童の相棒キシローと共に様々な事件をハチャメチャに解決していく。そしてどうやら徳子にはエリア51にやって来た壮絶な理由があるようで…。

 この世界中の異形ってのが実に便利な言葉で、神話から民話から怪奇からもう何でもありなのだからいやはや好みの人には実にたまらない漫画。アマテラスとネッシーとサンタクロースと河童と白雪姫が同じ世界に存在してるんだからもう最高なわけである。アマテラスはもちろん引きこもってるわけである。
 ここらへんのわくわく感はアメコミのクロスオーバーのまさにそれ。アラン・ムーアの「リーグ・オブ・エクストラ・オーディナリー・ジェントルメン」+「トップ10」といった趣で、最近だと屍者の帝国を楽しんだ人ならこの感覚は何となく分かると思う。もしくは平野耕太のドリフターズでもアベンジャーズでも何でも良いけれど、ありえない世界が交差する感覚はとっても楽しい。

 そして前作ジャバウォッキーと同様、久正人に異形溢れるこの手の伝奇ものを描かせるとめっぽう上手い。例えば現在連載中のものだと月光条例なんてエリア51と非常に近い構造を持つ漫画なのだけれど、そのわくわく感はエリア51とは比にならないと私は思う。
 とにかく久正人による既存のキャラクターの料理の仕方と絡ませ方がめちゃくちゃにおもしろいのだ。しかもハチャメチャなキャラクターの改変の中でもその本質はしっかりと感じられるわけで…。だってサンタクロースがチリソース大好きなリトルグレイに服を盗まれるなんてユーモア溢れる物語が、あの子供心を揺さぶられる涙ほろりなオチに帰結するんだぜ。そうなんだよなあ、子供がプレゼントを受け取る時サンタはもういないんだよなあ…。また白雪姫と人魚姫のクロスオーバーなんてスノーホワイトが裸足で逃げ出すくらい素晴らしい白雪姫の語り直しだった。

 そんな濃すぎるほどの世界観の中で、マッコイという可愛くもハードボイルドな主人公が図抜けて魅力的なのも何気にすごいよね。彼女もまた相当悲惨な過去を背負っているようで、色んな事件と関わりあいながら本筋も少しずつ進んでいく。アメコミの皮を被った浪花節なストーリーテリングは実に切ないし、合間合間に挟まれる「メェェェリィィィィィクリスマス!」なサンタクロースや最速のモンスター決定戦グレート・ゴールド・ラン・レース(我が日本からはターボババアが出場笑)なんてコメディも素敵で楽しい。そしてくとぅるんや荒野の七人ver七人の小人のような膨大な小ネタの数々…。いやぁ、これはたまらない!
 また久正人はアメコミにも造形の深い人で、マイク・ミニョーラよろしくな絵柄(本人によるとフランク・ミラーのパクリらしいが笑)と切れ味鋭い表現はちょっとシビれる格好良さ。ジャバウォッキーの時よりも絵柄はさらに簡略化されていて、より白と黒のコントラストは鮮烈になっている。

 そういう絵柄や物語の作り方等、他の漫画では体験できない作品だと思うので一読をおすすめ。好きな人は強烈にハマるはず。そもそも小説書く人含めて日本でこういう伝奇クロスオーバーに長けてる人なんてめったにいないよなあ。アメコミ好き、屍者の帝国のような歴史再編SF好き、ラヴクラフトのような怪奇好き、ここらへんの嗜好をお持ちの方々はぜひどうぞ。

ナイスレビュー: 1

[投稿:2012-10-21 17:33:10] [修正:2012-10-21 17:33:31] [このレビューのURL]

 色んな意味ですごくだらだらした漫画。私が初めてこれを読んだのは高校生の頃だったと思うのだけれど、相も変わらず遅々とした刊行ペース。そして当初から一貫した生ぬるさ。

 主人公の男とヒロイン二人の関係性を軸に、その周囲のごたごたやら何やらが描かれていく。

 読んでいて感じるのは、とにかくモラトリアムな雰囲気。ただ別にこの漫画の舞台は大学というわけじゃない。榀子は教師として働いている。当初はフリーターだったリクオは就職することになるし、ハルだって喫茶店でバイトしている。社会的には誰もがもがいて頑張っているわけで…。
 なのにこの漫画から成長を拒否するようなモラトリアムを感じてしまうというのは、恐らく3人の関係性に大した変化がないということに尽きる。少なくない巻数にも関わらず、変わっていくのは周囲の人間だけなのだ。3人の三角関係自体は、崩れそうで絶対に崩れない。

 で、それには正直かなり違和感があったりもする。現実の時間が流れる社会の中に、漫画的な時の止まった恋愛関係を放り込んでいるのだから。この関係性のまま、もし後10年が経過したらどうか…と考えてみるとこの世界観の歪さがよく分かる。
 ただここらへんは作者も自覚的だとは思うんだよなぁ。時折「何にも変わってはいないんじゃないか…」みたいな独白が挟まれたりすることもあるわけで。でも時の止まった関係性をどう動かすかというのは作者自身も見えていないんじゃないか。というか終わらせることを志向していないし、読者の方も望んでいない気はする。

 だってやっぱりひたすら変化を拒むようなこの歪な関係性は何となく心地よいからだ。どことなく後ろ向きな心地よさではあるけれども、このだらだらに浸っていたくなる時間というのはある。

 しかし上でも書いたように、もし作中の時間で10年が経過してしまったらそれはさすがに歪すぎるということで、どこかで時の止まった恋愛関係を動かさなければいけないんだろう。いくら先延ばしにしても結局やらなければならなくなるというのは、いかにもモラトリアム的だよなぁ。
 ということで、その時が動かされる瞬間がいつか見れることを期待してこれからも読み続けていくつもり。別に急がなくてもいいのだけれど。

ナイスレビュー: 1

[投稿:2011-09-08 02:25:45] [修正:2012-07-27 22:11:55] [このレビューのURL]

 夢野久作×丸尾末広ですよ…! 恐らく乱歩と並んでこのタッグを待ち望んでいた人も多いはず。後は泉鏡花なんてどうでしょうか丸尾先生。

 本作は表題作である夢野久作の「瓶詰の地獄」以下4作が収録された丸尾末広の作品集。

 瓶詰の地獄は夢野久作の少なくはない短編の中でもベストオブベストの一つに挙げられると思う。事故により天国のような無人島に流れ着いた兄妹の禁忌と苦悩が3つの書簡を通して描かれていく。
 これはもうさすが丸尾末広という素晴らしさ。幸福な楽園であった島。しかし唯一の秩序であった聖書を信ずる心が内から芽生えた禁忌によって脅かされた瞬間、そこは地獄に変転する。丸尾末広はどこまでも美しく、どこまでも狂おしく内から楽園が崩壊していく様を象徴的に描ききる。圧倒的なビジュアルイメージにくらくら。

 瓶詰の地獄をより印象的な作品としているのが、色んな解釈の幅が残されていることに加えて、作中にいくらかの矛盾点が見られるというのがあって…。それらも突き詰めて考えていくと想像の地平にはキリがなくて、でもだからこそ掌編とは思えないほどこの作品は味わい深い。一つだけ文句があるとすれば、このコミカライズでは丸尾末広の解釈で新たな瓶詰の地獄の世界を読みたかった。再現性でいえばこれ以上のものはないだろうけれど、最後に読者にぶん投げてお茶を濁すのはどうだろうと思わないでもなかったり。

 一転してコミカルな「聖アントワーヌの誘惑」。こちらは絵は楽しいものの、今ひとつ自分の中のおもしろさにリンクせず。笑わせにきてるのかがあんまり確信できないままふわふわしてる感じというか。別に愉快でもないしなぁ。
 
 落語を原作としたとことん皮肉な諧謔に満ちた「黄金餅」。こちらはけっこうアレンジされているのだけれど、秀逸。落語の方は、善良な一般人ですらも金を手にするためならこうまでやるか…というものだったのに対して、丸尾版の登場人物はみんなストレートに強欲。そして強欲が強欲にどんどん食われていくその様。どうしても逃れられない人間の強欲さという業を強烈に感じるのは変わらない。

 とことんアンハッピーな「かわいそうな姉」。エドワード・ゴーリーの「不幸な子供」を意識しているのかと思うのだけれど、どうだろう。ゴーリーのような何かもう笑ってしまう程の芸術的な小気味よさで語られる不幸のオンパレードというわけではなくて、情念がこもってるだけにひたすら後味が悪い。難しいなぁ…あんまり好みではないかも。

 しかし時代時代の文化や風俗を一つのコマの中にさりげなく落とし込んで独自の世界を作ってしまえる丸尾末広はやっぱりすごい。話はそれぞれ好みが分かれるかもしれないけれど、絵を眺めるだけでも満足だったり。瓶詰の地獄や黄金餅は特にお気に入りです。

ナイスレビュー: 1

[投稿:2012-07-10 23:32:20] [修正:2012-07-10 23:32:20] [このレビューのURL]

10点 羣青

 本当にすさまじい漫画。読んでいると、いつの間にか息が止まっていることに気付いたり。体の変な所に力が入っていたり。知らないうちに滂沱していたり。読んだ後に30分くらい放心状態で天井眺めていたり。その後眠ろうとしても全然寝付けなかったり。そんな漫画はなかなかない。

 もう内容はと言えば、どろどろでぼろぼろな悲劇。惚れた女の旦那を殺したレズ女と旦那の暴力に耐えかねてレズ女に旦那を殺すよう頼んだめがね女、二人の宛のない逃避行が始まる。
 女二人の逃避行といえばやっぱりテルマ&ルイーズだったり、もしくは人を殺すことに追随する負を描くという意味であれば罪と罰だったり、内容面での新鮮味はそんなにないのだけれども。しかし羣青がすさまじいのは、圧倒的に本物ということだ。

 羣青はすんごく重い。本当にどろどろでぼろぼろで狂おしくて。でも重い話というだけなら、別に珍しくはない。そもそも読み物で何億人死のうと、現実における一人の死とは比べ物にならないわけで。話が重ければ重いほど、舞台が現実であればあるほど、私達はその乖離を痛感させられてきたと思う。
 ただ羣青が他と圧倒的に違ったのは、いつもそこにあったはずの現実と読み物を隔てる厚いフィルターが限界までぶち破られていたことで。羣青において人が死んだら、傷つけられたら、本当にそうであるように感じられた。どこまでもどうしようもない後悔とか、糞みたいな愛とか、底の見えない憎悪とか。二人の感情の濁流というのが直にドカンと来た。

 そう、本当に濁流。漉されていない大量の感情。だからこそ自分と全く縁もないこんな二人にありえないほど感情移入してしまう。移入するというかもう引きずり込まれてしまう。没入にも程があるくらい没入して、気付いたら滂沱しちゃっている。すごすぎる。
 何でこんな作品を描けるのかって考えた時に、そりゃあ中村珍の技量や漫画に対する真摯な姿勢はもちろんあるのだけれども、それでもこれはありえない気がする。それを可能になさしめたのは帯に書かれているように“魂”としか言えないのかなと。完全に一線を踏み越えてしまっていると思う。

 もう何か言葉にすればするほど嘘になっていく感じがして、でも多分それが本物ということだ。絵は癖があるし、ページ数や値段も含めてなかなか買いにくい作品なのだけれど、頭をぶん殴られたような衝撃を味わいたい人は必読。まじで大傑作です。

[完結によせて]
 羣青という作品は、愛や孤独、理解しあうことを描いた作品だった。人と人は決して本当には一つになれないこと。本当の意味で他者を理解することは出来ないこと。もちろんこれらは羣青だけではなく、数多くの作品で描かれてきた普遍的なテーマだ。
 特にSFというジャンルはこれらのテーマを得意としてきたように思う。宇宙人が誰かの頭の中に乗り移ったり、人類が個体の枠組みを超えた一つの生命体となったり…。空想の世界の中では、人がひとりぼっちから解放されることは容易かった。

 羣青の何が特別かというと、驚くほどにこれらのテーマに真正面から立ち向かっているということで。だからこそ羣青を読むと息苦しいし、“愛”という言葉が全く似つかわしくないほどこの作品は泥臭い。

 とにかく執拗に自己と他者の世界のずれが提示されていく。主人公であるメガネさんとレズさんの世界は決して交わることはないし、理解しあうことはない。何度も何度も彼らはぶつかり合い、すれ違い続ける。
 極め付けが、メガネさんとレズさんの兄貴との会話であり、レズさんとレズさんの元彼女さんの母親との関係性だ。レズさんの兄貴も、レズさんの元彼女さんの母親も決して悪い人間ではなくて、むしろ正しくて立派な人間なのだろう。しかし彼らの言葉や態度はどうしようもなく上滑りしていく。カウンセリングだろうが友人のアドバイスだろうが何でも良いのだけれど、理解を示す人間が、ああこいつ何にも分かってないんだなって逆に絶望を加速させてしまうことがあるじゃない。それは正しいとか悪いとかいう問題ではないわけで。中村珍はこの人間同士の世界のずれを執拗に、絶望的に繰り返し描き出していく。本当にたまらない。

 そして二人が辿りついたところが「知り合わなきゃ、絶対幸せだったのに…」であり、さらにもう一つの台詞が連なっていくのだ。

 行き着くところまで行き着いてくれたという実感。作者の蛮勇に心から拍手。この真理に持ってゆきたいがために上中下巻、決して短くはないページ数で濃い物語を綴ってきたんだなぁ。
 中村珍にしか描けない泥にまみれた愛であり、人間賛歌だった。きっつい作品だったけれども、そのきつさ以上のものをもらった漫画だった。こんな業の深い漫画はなかなか読めるもんじゃない。

ナイスレビュー: 1

[投稿:2012-02-16 02:27:22] [修正:2012-06-24 11:19:50] [このレビューのURL]

 ヤマシタトモコの6つの短編が収録されている作品集。最初の方の比較的初期のものから今年発表されたばかりのものまで色々なので、一冊の短編集としての味わいはさまざま。

 最初の4つは比較的初期の投稿作ということなのだけれども。これらと後の2つを見比べると、ヤマシタトモコは明らかに「ドントクライ、ガール」以降あたりから変わったなぁと思う。男も女も一歩踏み間違えばギャグになっちゃいそうな、変な色香がまだまだ感じられない。
 線は硬くても、決して下手というわけじゃあない。むしろ現在のヤマシタトモコよりもコマ割りも多くて丁寧に描いているし、しっかり描き込んでもいるんだけどねぇ。やっぱりヤマシタトモコのおもしろさはそういう部分じゃないんだなぁ、と痛切に感じた。

 というわけで、初期の4つは今ひとつ。ヤマシタ作品王道のおじと姪っ子シチュエーション、少しファンタジックな魔法少女、人情幽霊ものと、様々な話が見られるという点では見所はあるのだけれども。どれも投稿作ということもあってか、肩に力が入りすぎなのかもしれない。話も絵もごちゃごちゃで、物語にもう一つ乗り切れなかった。

 やはり比較的最近の2つがおもしろい。

 「ビューティフルムービー」は映画館に勤める女性が主人公。“映画のように美しいその一瞬で、すべてが終わってほしかった”と映画と引き比べては現実に疲れている女性の物語だ。現実には映画みたいに起承転結があって、美しいラストで終わりはしない。ずっと同じことの繰り返しかもしれないし、何か素晴らしいことがあっても次の日には色あせているかもしれないわけで。この短編においても女性に何か変化が訪れるわけじゃあない。別れた彼氏とは元に戻らないし、新しい恋をすることだってない。
 決して明るい物語ではないのだけれど、まあ現実においてもそんなもんだよなぁ。ヤマシタトモコの描く倦怠と退廃はそれだけで色気があるし、そんなモノクロな現実に訪れる一瞬の色彩は驚くほどに鮮烈だった。私達と同じ現実に生きているからこそ主人公に共感してしまうし、その一瞬のために生きていける気がする。

 「MUD」はこれぞヤマシタトモコな傑作。主人公は予備校に通う女子高生。退屈な日常を生きている彼女はある日予備校の教師が落とした携帯を見つけると、その画面には明け透けなSM願望のつぶやかれたツイッターの画面が写っていた…。
 このような退屈な日常があるきっかけで輝きだすというよくあるストーリーなのだけれども、そのきっかけとその日常の輝き方というのが尋常じゃなくエグい。アナルプラグとか緊縛とかそんなんばっか。そして行き詰った二人の関係がどうなるのかとやきもきしていたら…何とも見事に放り投げてくれるなぁ笑。最後にこんなに切れ味鋭いジャーマンスープレックスをかけれる漫画家はまじでヤマシタトモコくらいだと思う。こんなの笑うしかない。

 これが一番最初のヤマシタトモコというのはおすすめしにくいけれども、他の作品を気に入った方なら最後の二つのために読む価値はあると思う。やっぱり最近のヤマシタトモコはノリに乗ってる。

ナイスレビュー: 1

[投稿:2012-06-15 00:41:17] [修正:2012-06-15 00:42:51] [このレビューのURL]