「臼井健士」さんのページ

5点 ライフ

イジメを題材にした、そんじょそこいらのホラーなんかよりもよっぽど恐ろしい作品。
主人公の年頃の女の子が恐怖で失禁(おもらし)してしまうような展開は少女漫画として通常は有り得ない。

とにかく異様。常に自分が1番可愛がられていないと満足しない安西愛美を中心とする女子一派によるイジメの数々は「そこまで出来るもんかッ?」ていうくらいの激しさで主人公の少女・歩を心身ともに追い詰めていく。集団でたった1人をいたぶるという構図はまるで「麻薬のように」加害者である少女たちを快感に酔わせ、顔を歪ませ、そして狂わせていく。

舞台は御伽話の世界ではない。主人公は特殊な能力を持っているわけでもなく、ましてや伝説の勇者でも有り得ない。力は弱く、成績も下位、失意の内に入学した高校で「仲間外れにされること」に怯え、周囲の顔色を窺って生きてきた一般人。只の、そう、おそらくはどこにでもいるような「弱い女子高生」でしかない。

その彼女が立ち向かわなければならない敵は、現実世界に存在していた。
これは勇者でも英雄でもない女の子が、現実世界で最も恐ろしい敵に立ち向かうお話なのだ。
誤解と愛美の策略によって周囲の全てが「敵」に回る絶望的な環境の中では、自分が一人ぼっちになったような感覚に陥る。
けれど、本当にそうか?多数の人間が存在し、それらの人々のひとりひとりが別の人格を持ち、違う親から生まれ、異なる環境で生育されてきているというのに、その全ての人間が考えなく「暴虐に手を貸し、非道を看過するものなのか?」

「否」。

集団は多数になればなるほど統率することが困難になる。本来ならばクラスの「異分子」として扱われ、友情など育むことはなかったであろう羽鳥が歩の最も力強い味方となる。
最初は彼女の強さに憧れているだけだった歩が、彼女の強さに惹かれていくうちに「あらゆる困難に立ち向かう戦士の顔つき」になっていく様はたとえて言うならば「暗雲を切り裂く一筋の雷光」のようだ。

人は困難に出遭ったときに革命的に変わることがあるという。
歩の手首に残るリストカットの傷跡を「恥」と思わずにさらけ出せる日もそう遠いことではあるまい。

「茨の道を切り裂く女戦士の物語」です。

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[投稿:2010-11-27 14:20:38] [修正:2012-01-03 09:25:22]