「鋼鉄くらげ」さんのページ

9点 リアル

非常に評価の難しい作品です。

何故なら、エンターテイメントとしての「面白い」という言葉の概念では、この作品の評価としては不適当なものだと思うからです。

この作品は、いわば三人の若者達のドキュメンタリー作品で、現実に苦悩し、葛藤する若者達の等身大の姿を、ありのままに描き出し、大衆社会へ提示することで、あなたはどう感じるか?を問うているものなのではないかと、私は思っています。

おそらくそこに答は無く、どう感じるかはその人次第。それ故に「娯楽」としての「面白さ」を物差しとしてこの作品を評価する事は、少しズレがあるのではないかと感じます。

もう一つ、この作品の正当な評価を難しくしているのが、この作品が「井上雄彦先生の作品だから」です。

有名作家が描いた作品という一般的事実が、また一段とこの作品に対する客観的な評価を難しくしています。

しかし、そうは言っても当の井上先生はこの上ない画力、構成力を持つ作家であり、「魅せる漫画」を描く作家の一人だと私は思っています。

圧倒的な画力と、キャラクター達の持つ魅力、そして読者一人ひとりを作品の世界観へと引き込ませる力、しかし一方で今後一つの作品として完成度の高いまとまりを持った作品となるかどうかは、まだ未知数である。という、以上の理由から、9点という評価を付けました。

<2011年1月 追記>

10巻まで行っても(10年経っても)未だに一念発起してやる気を見せようとしない高橋に対しては正直8巻辺りからイライラしていたんですが、しかしよくよく考えれば、それこそがごく普通の人間としての「リアルな姿」なのではないかと、そんな事を最近になって考え始めました。

普通の物語ならば、絶望の淵から再起して、社会復帰を目指そうとする高橋の挑戦物語が始まりそうなものなのですが、彼はいつまで経っても再起の一歩を踏み出せず、自分に言い訳をしたり、逃げる場所を探していたりしています。しかし、その高橋の姿こそが本来の人間が持つ姿であり、絶望の淵に堕ちた人間心理そのものではないかと私は考えました。

物語たりえない人間らしすぎる行動。それは、物語を構成する上では非常に大きな欠陥とも言える要素かもしれませんが、「リアル」を写実する上では実に重要な要素です。その意味で高橋は非常に魅力的な行動を取ってくれるキャラクターであり、この物語の中で誰よりも「リアル」の世界を生きているように思えます。高橋が今後どうなるのか。その行く末がとても興味深いです。

ナイスレビュー: 2

[投稿:2008-11-13 20:21:16] [修正:2011-01-23 23:59:24]

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