「鋼鉄くらげ」さんのページ

総レビュー数: 292レビュー(全て表示) 最終投稿: 2007年10月28日

作品としても随分前に完結し、自分自身も随分前に読み終わったこの作品なのですが、今まで長い間完結レビューをほったらかしにしていました。そんな訳で、いよいよ完結版のレビューをがっつりと書こうかと思います。

この作品、序盤から中盤にかけては基本的にまったりのんびりとした喫茶で働く主人公、高村潤(たかむらうる)の日常風景が物語の主軸として進んでいきますが、後半の桜庭社長が出てくる辺りから全体的に雲行きが怪しくなり、終盤、最後の最後に出てくる物語の「核心」部分では、超絶ヘビーな展開が読者を待ち構えています。序盤、中盤の少年誌では考えられないくらいの絵柄・物語双方のユルさと、終盤の少女漫画らしい独特のおどろおどろしい雰囲気を醸し出した作品全体のヘビーさとのギャップは相当なものなので、ぜひ一度読んでほんわか&ハラハラしてほしいところです。

ただまぁ、何と言ってもこの漫画の魅力は、主人公「高村潤」の人間としての魅力に尽きると言っても過言では無いと思います。彼女の天真爛漫で純粋で、大ボケな天然っぷりは、まるで可愛らしい小動物を眺めているかのような癒しの効果を受けます。しかし勿論ただ純粋なだけでなく、芯の強さや、正義感の高さを持ちあわせながらも、それでいて繊細で、人の痛みも分かってあげられるという、どんだけ完璧超人なんだよとツッコみたくなるくらいに深い魅力を持ったキャラクターです。

物語が多少不出来な作品でも、キャラクターに好きな部分があると何となくそれを許してしまい、またそれに付随するように作品も苦なく読めてしまうという、それだけキャラクターというのは物語にとって大事な要素なのだと、そんな事を考えさせられます。

あまり少女漫画らしくない少女漫画なので、「少女漫画はちょっと・・・」という人にもぜひ読んでみてほしい作品です。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2009-08-05 19:29:42] [修正:2011-01-25 20:22:16] [このレビューのURL]

打ち切りされた作品のレビューを書くにあたって、何が厄介かって言うと、本来語られるはずだった物語の結論が語られないままに、これまで広げてきた世界観とか物語の伏線とか、そういったものを全て置き去りにして、挙句の果てに、駆け足で物語を進めていって無理矢理に終わらせてしまったその作品を、一体どう評価をしたらいいのか、っていう所にあると思うんですよね。

で、この作品なんですが、この作品も他の打ち切り作品の例に漏れず、ひどく大雑把な終わり方をしました。寄り道ばっかりして全然野球をしなかったストーリー上の問題点とか、この作品の持っていた色々な問題点を書こうかと考えたんですが、製作者側からの作品を通しての結論が明確に提示されていない以上、どれだけ考えて書いても無意味だという事に気付いたのでやめました。

毎度の事なんですが、打ち切り作品っていうのは、ホント消化不良で気持ちが悪いです。

ナイスレビュー: 1

[投稿:2011-01-23 23:58:00] [修正:2011-01-25 20:21:59] [このレビューのURL]

9点 リアル

非常に評価の難しい作品です。

何故なら、エンターテイメントとしての「面白い」という言葉の概念では、この作品の評価としては不適当なものだと思うからです。

この作品は、いわば三人の若者達のドキュメンタリー作品で、現実に苦悩し、葛藤する若者達の等身大の姿を、ありのままに描き出し、大衆社会へ提示することで、あなたはどう感じるか?を問うているものなのではないかと、私は思っています。

おそらくそこに答は無く、どう感じるかはその人次第。それ故に「娯楽」としての「面白さ」を物差しとしてこの作品を評価する事は、少しズレがあるのではないかと感じます。

もう一つ、この作品の正当な評価を難しくしているのが、この作品が「井上雄彦先生の作品だから」です。

有名作家が描いた作品という一般的事実が、また一段とこの作品に対する客観的な評価を難しくしています。

しかし、そうは言っても当の井上先生はこの上ない画力、構成力を持つ作家であり、「魅せる漫画」を描く作家の一人だと私は思っています。

圧倒的な画力と、キャラクター達の持つ魅力、そして読者一人ひとりを作品の世界観へと引き込ませる力、しかし一方で今後一つの作品として完成度の高いまとまりを持った作品となるかどうかは、まだ未知数である。という、以上の理由から、9点という評価を付けました。

<2011年1月 追記>

10巻まで行っても(10年経っても)未だに一念発起してやる気を見せようとしない高橋に対しては正直8巻辺りからイライラしていたんですが、しかしよくよく考えれば、それこそがごく普通の人間としての「リアルな姿」なのではないかと、そんな事を最近になって考え始めました。

普通の物語ならば、絶望の淵から再起して、社会復帰を目指そうとする高橋の挑戦物語が始まりそうなものなのですが、彼はいつまで経っても再起の一歩を踏み出せず、自分に言い訳をしたり、逃げる場所を探していたりしています。しかし、その高橋の姿こそが本来の人間が持つ姿であり、絶望の淵に堕ちた人間心理そのものではないかと私は考えました。

物語たりえない人間らしすぎる行動。それは、物語を構成する上では非常に大きな欠陥とも言える要素かもしれませんが、「リアル」を写実する上では実に重要な要素です。その意味で高橋は非常に魅力的な行動を取ってくれるキャラクターであり、この物語の中で誰よりも「リアル」の世界を生きているように思えます。高橋が今後どうなるのか。その行く末がとても興味深いです。

ナイスレビュー: 2

[投稿:2008-11-13 20:21:16] [修正:2011-01-23 23:59:24] [このレビューのURL]

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