「鋼鉄くらげ」さんのページ

総レビュー数: 292レビュー(全て表示) 最終投稿: 2007年10月28日

反骨精神という言葉があるように、まだコンピューターグラフィックによる漫画の作成が出来ずに、更にはスクリーントーンさえ無かった時代、多くの漫画家志望者達は全て自分の手で(つまりは画力で)万物の全てを描写し、表現しなければなりませんでした。そういった逆境とも言える時代の中で育った漫画家達は、確かに今現在の漫画家達と比べても格段に画力が高いです。自分の手で描かなければ伝えたい事を伝えられなかった時代。上手くなる事は、むしろ必然の結果だと言えたのかもしれません。

そんな前置きをしてこの作品ですが、絵だけをとって見れば、文句無しに10点です。もう惚れ惚れしてしまうほど、その画力は素晴らしく、別マガの中でも群を抜いてその巧さが際立っています。同誌に掲載されている他の作品群が子供同然に見えてしまうほど、その巧さはもはや別次元です。

ただストーリーとしては、自叙伝に近いものがあるため、「楽しむ」というよりは「知る」という感覚の方が強いかもしれません。しかし幕末の時代劇物を楽しみたいという人にとっては、その抜群の画力と綿密かつ緻密な時代考証あるいは舞台設定から繰り広げられる、吉村貫一郎の壮絶な人生叙事詩に充分満足できる作品なのではないかと思います。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2011-02-20 22:28:19] [修正:2011-02-20 22:28:19] [このレビューのURL]

1巻の表紙絵とタイトルの「あざとさ」から、どうせ2、3点止まりのネタ本だろうと、その面白さに対して全く期待をしていなかったんですが、いざ実際に読んでみるとその予想に反して、結構な面白さを持った作品でした。正直、悔しさを感じるくらいに。しかも更に悔しいのが、面白いのはどうせ最初の1巻くらいで巻数を重ねれば面白くなくなるんじゃないかと思い、現行の3巻まで読んでみたのですが、それでもやっぱり面白かったという事で更にその悔しさが増幅されました。

簡単にこの作品の内容を説明すると、兄大好きの超ブラコンな妹が、思春期丸出しのバカな兄貴を心の中で罵りながらも、その行動を思うがままに手玉に取り、弄ぶという、言葉だけで表現すると何とも気持ち悪い事この上ない初期設定です。そんな訳で、まぁ、この漫画は変態だらけのギャグ漫画だと思ってくれればほぼ間違いないと思います。

おそらくこの面白さは一時的で、今後絶対に面白くなくなるはずだ。

そういう自分の「呪い」の意味も込めて今回は6点を付ける事にします。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2011-02-11 22:50:27] [修正:2011-02-11 22:59:29] [このレビューのURL]

正直な話、当時この作品がジャンプで掲載されていた頃、自分はあまりこの作品に共感できずにいました。その理由を一言で言ってしまうと、「問題解決の方法論に共感を得なかった」からです。

物語に起承転結の起伏がある以上、主人公がピンチになり、そこからの大逆転を経て物語がハッピーエンドの方向へと収束していくという過程は至極当然であるため、そこに異論の余地は無かったのですが、そこに辿り着くための方法論がどうしても自分の中で納得のできないものばかりだったのを記憶しています。

その方法論を相撲で例えるとします。ある力士が、ここからここまでしか範囲がない土俵の瀬戸際で相手力士に追い込まれています。するとその力士は突然、無理矢理外周の円を足で押し広げて、円をはみ出させてその場を耐え凌いでしまいました、といった具合の方法論を繰り返し取っているように思えたんですよね。つまり無理矢理ルールを拡張させてしまっているような。

勿論これは、物語の意外性という言葉で表現される部分でもあるため、これを意外性と取るか、ズルいと取るか。これは完全に好みの問題です。が、少なくとも自分はあまり納得できませんでした。

最近改めて読み直してみて、確かに話としてはまずまず面白いと思えたんですけど、やはり要所ごとの判断が自分とは噛み合わないなと。そんなことを感じさせられた作品でした。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2011-02-11 22:49:47] [修正:2011-02-11 22:49:47] [このレビューのURL]

作品としても随分前に完結し、自分自身も随分前に読み終わったこの作品なのですが、今まで長い間完結レビューをほったらかしにしていました。そんな訳で、いよいよ完結版のレビューをがっつりと書こうかと思います。

この作品、序盤から中盤にかけては基本的にまったりのんびりとした喫茶で働く主人公、高村潤(たかむらうる)の日常風景が物語の主軸として進んでいきますが、後半の桜庭社長が出てくる辺りから全体的に雲行きが怪しくなり、終盤、最後の最後に出てくる物語の「核心」部分では、超絶ヘビーな展開が読者を待ち構えています。序盤、中盤の少年誌では考えられないくらいの絵柄・物語双方のユルさと、終盤の少女漫画らしい独特のおどろおどろしい雰囲気を醸し出した作品全体のヘビーさとのギャップは相当なものなので、ぜひ一度読んでほんわか&ハラハラしてほしいところです。

ただまぁ、何と言ってもこの漫画の魅力は、主人公「高村潤」の人間としての魅力に尽きると言っても過言では無いと思います。彼女の天真爛漫で純粋で、大ボケな天然っぷりは、まるで可愛らしい小動物を眺めているかのような癒しの効果を受けます。しかし勿論ただ純粋なだけでなく、芯の強さや、正義感の高さを持ちあわせながらも、それでいて繊細で、人の痛みも分かってあげられるという、どんだけ完璧超人なんだよとツッコみたくなるくらいに深い魅力を持ったキャラクターです。

物語が多少不出来な作品でも、キャラクターに好きな部分があると何となくそれを許してしまい、またそれに付随するように作品も苦なく読めてしまうという、それだけキャラクターというのは物語にとって大事な要素なのだと、そんな事を考えさせられます。

あまり少女漫画らしくない少女漫画なので、「少女漫画はちょっと・・・」という人にもぜひ読んでみてほしい作品です。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2009-08-05 19:29:42] [修正:2011-01-25 20:22:16] [このレビューのURL]

打ち切りされた作品のレビューを書くにあたって、何が厄介かって言うと、本来語られるはずだった物語の結論が語られないままに、これまで広げてきた世界観とか物語の伏線とか、そういったものを全て置き去りにして、挙句の果てに、駆け足で物語を進めていって無理矢理に終わらせてしまったその作品を、一体どう評価をしたらいいのか、っていう所にあると思うんですよね。

で、この作品なんですが、この作品も他の打ち切り作品の例に漏れず、ひどく大雑把な終わり方をしました。寄り道ばっかりして全然野球をしなかったストーリー上の問題点とか、この作品の持っていた色々な問題点を書こうかと考えたんですが、製作者側からの作品を通しての結論が明確に提示されていない以上、どれだけ考えて書いても無意味だという事に気付いたのでやめました。

毎度の事なんですが、打ち切り作品っていうのは、ホント消化不良で気持ちが悪いです。

ナイスレビュー: 1

[投稿:2011-01-23 23:58:00] [修正:2011-01-25 20:21:59] [このレビューのURL]

9点 リアル

非常に評価の難しい作品です。

何故なら、エンターテイメントとしての「面白い」という言葉の概念では、この作品の評価としては不適当なものだと思うからです。

この作品は、いわば三人の若者達のドキュメンタリー作品で、現実に苦悩し、葛藤する若者達の等身大の姿を、ありのままに描き出し、大衆社会へ提示することで、あなたはどう感じるか?を問うているものなのではないかと、私は思っています。

おそらくそこに答は無く、どう感じるかはその人次第。それ故に「娯楽」としての「面白さ」を物差しとしてこの作品を評価する事は、少しズレがあるのではないかと感じます。

もう一つ、この作品の正当な評価を難しくしているのが、この作品が「井上雄彦先生の作品だから」です。

有名作家が描いた作品という一般的事実が、また一段とこの作品に対する客観的な評価を難しくしています。

しかし、そうは言っても当の井上先生はこの上ない画力、構成力を持つ作家であり、「魅せる漫画」を描く作家の一人だと私は思っています。

圧倒的な画力と、キャラクター達の持つ魅力、そして読者一人ひとりを作品の世界観へと引き込ませる力、しかし一方で今後一つの作品として完成度の高いまとまりを持った作品となるかどうかは、まだ未知数である。という、以上の理由から、9点という評価を付けました。

<2011年1月 追記>

10巻まで行っても(10年経っても)未だに一念発起してやる気を見せようとしない高橋に対しては正直8巻辺りからイライラしていたんですが、しかしよくよく考えれば、それこそがごく普通の人間としての「リアルな姿」なのではないかと、そんな事を最近になって考え始めました。

普通の物語ならば、絶望の淵から再起して、社会復帰を目指そうとする高橋の挑戦物語が始まりそうなものなのですが、彼はいつまで経っても再起の一歩を踏み出せず、自分に言い訳をしたり、逃げる場所を探していたりしています。しかし、その高橋の姿こそが本来の人間が持つ姿であり、絶望の淵に堕ちた人間心理そのものではないかと私は考えました。

物語たりえない人間らしすぎる行動。それは、物語を構成する上では非常に大きな欠陥とも言える要素かもしれませんが、「リアル」を写実する上では実に重要な要素です。その意味で高橋は非常に魅力的な行動を取ってくれるキャラクターであり、この物語の中で誰よりも「リアル」の世界を生きているように思えます。高橋が今後どうなるのか。その行く末がとても興味深いです。

ナイスレビュー: 2

[投稿:2008-11-13 20:21:16] [修正:2011-01-23 23:59:24] [このレビューのURL]

ある一人の新任教師が南端に存在する島の学校に赴任し、そこで学校の先生として島の子供たちとの交流を深めていく、という超有名小説そっくりな初期設定です。

まぁ確かに取材をしただけあって南国の島独特の空気感みたいなものはよく出ているんですが、はっきり言ってしまえばそれだけの漫画です。悪い作品ではないのですが、「漫画」としての面白さが全然ありません。絵が巧いとか、ストーリーが秀逸であるとか、あるいは構成が卓越であるとか、発想が斬新かつ奇抜であるとか、そういった漫画を読むときに楽しみとなる、作品としての妙味がことごとく欠けています。

表紙絵のパッと見の印象が良かっただけに、実に残念な作品でした。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2010-12-29 10:22:42] [修正:2010-12-29 10:30:20] [このレビューのURL]

最後の方は目も当てられない程のヒドい有様となったこの作品ですが、トータルで見るとやはり独特のセンスと面白さを持った作品でした。(それでも正直、素直に面白かったと思えるのは10巻前後くらいまでですが。)

ところで、どうして最初の方よりも最後の方が面白くなかったのかと考えてみたのですが、その理由はおそらく「ギャグに対する共感性」の低下なのではないかと考えました。例えばの話ですが、全身タイツの男が目の前から走ってきたとして、その男性が友人たちの間でも人気者のA君なら違和感なく笑って許せるはずですが、普段無口で全く喋らない無愛想のB君なら逆にキモくて、B君頭どうしたの?となる訳です。

つまりどういう事かというと、ギャグというのは起きている現象(=ネタ)そのものもさることながら、その現象を取り巻く環境やバックグラウンドも、ギャグの面白さを決定付ける重要な要素となるのではないかと考えた訳です。

あとは…そうですね。最後の方のジャガーは、最初の方に比べて読んでてツッコみづらいんですよね、ギャグに対して。ボケられてもそのボケが異質過ぎて、読み手としては反応しづらいというか。その辺りも共感性の低下の一部分だったんじゃないかと思います。

まぁ、前にも書きましたが、この作品は定食で言えば添えつけのお新香のような存在です。なのでメインとして楽しむというよりは、あくまで息抜き程度に楽しむと。そういう作品として捉えればいいんじゃないかと思います。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2008-06-15 20:32:47] [修正:2010-12-04 14:03:07] [このレビューのURL]

夢を持っている少年達にではなく、夢を持っていた「かつての少年達」に贈られた物語。

人って、少年・少女から「大人」へと変化する過程の中で、突然この世の全てが憎くなり絶望し、最終的にはこんな世界なんか滅んでしまえばいい、なんていう考えになってしまう時期があると思うんです。それはつまり、自己以外の全てに対する存在意義の否定です。しかしそれは逆に言えば、それほど強大な意志を持った、他者に対しての自己肯定の願望意識の現れであるとも言えると思うんです。つまり、「私を認めて欲しい」という意識です。

この物語は、そんな絶望と願望から生まれた作品のように思えます。

ある日突然、子供達は気付いてしまうんです。
世界は限りあるもので、宝島や夢の王国なんていうものは存在しない。
社会は欺瞞に満ちていて、正義のヒーローや神様なんていうものも存在しない。
あるのはただただ「現実」のみで、そこには空虚で冷たい世界しか存在していない。
そんな、社会に絶望してしまった「かつての少年達」に贈られた、「残された希望」とは何かを問い掛けた物語。それが、この「惑星のさみだれ」という作品だったのではないかと思います。

最後に、この作品を一度全て読み終えた人には、もう一度最初から読むことをオススメします。もう一度読み直すと、作者が終盤に向けて序盤に仕掛けた伏線の数々が、意味を持ってもう一度姿を現してくると思います。

「こんな世界なんか、滅んでしまえばいい」

そう思っている人達に、ぜひ一度読んでみて欲しい作品です。

ナイスレビュー: 3

[投稿:2009-04-02 19:48:44] [修正:2010-12-02 12:03:43] [このレビューのURL]

『今から君達一人ひとりに「色」を与えます。それは、これから君達が向かう人間界で「個性」と呼ばれるものです。君達はこれから先、人間界で人間として生きていく中で、その「色」を充分に生かした一生を過ごしていって下さい。』

自分達が生まれる前に、神様からそんな手解きがあったのだとしたら、自分に与えられた「色」は何色だったのだろう。そんな事を思った短編集です。

「それ町」でも思った事なのですが、この作者はとても個性的な「色」を持っています。それこそ赤や青などといった単色ではない、モスグリーンやビリジアンなどといった複数の色が混ざり合わさった、とても複雑な色合いです。

面白さを求めるというよりも、作者、石黒正数という人物の人間観察としてこの短編集を読んでみる。作品に対して向かう姿勢としては、そちらの方が正しいのではないかと思います。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2010-12-02 12:02:26] [修正:2010-12-02 12:02:26] [このレビューのURL]

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