「朔太」さんのページ

表題の意味を調べてみると、”弱者が敵わない強者に対して内面に抱く、
「憤り・怨恨・憎悪・非難・嫉妬」といった感情。
そこから、”弱い自分は「善」であり、強者は「悪」だという「価値の転倒」の
こと”でニーチェの思想用語だそうです。

このルサンチンマンに焦点を合わせた着想は、大したものです。
弱者が価値の転倒を行うのは、現代社会においてメディアが弱者側のフリをして
盛んにルサンチマンをかこつけているのは承知の通りです。
貧しくて自己肯定の小さい若年層から老人まで、多くの底辺層は同じ思想に取りつかれます。
しかし、文学のテーマになりえても青年誌の読者層に共感は得られるのか、
という問題は残ります。

同じような取り組み、ライフワークを感じる作家さんに、古谷実氏、新井英樹氏
を連想させますが、花沢健吾氏には彼ら以上に下層に降り立つ思想を感じます。
抑圧どころか、あまりのコンプレックスぶりに、権力に立ち向かう気力すら無様さで、
遠くから小さな石ころを投げつける程度の反抗心を持つ階層者をイメージさせます。
前者の作家さんたち、あるいは他の作家さんたちには、権力に立ち向かう熱情を
少なくとも主人公に与えます。

これが、花沢氏の場合には、最終的に主人公にその熱情を与えるにしても、
そのきっかけは少女との小さな共感、結びつきであり、たとえ虚構にあっても
小さな自己満足が成果になります。
小市民のささやかな自己実現をそんな風に見せられても、多くの健全な読者には
そんな人種も世の中にはいるんだな、ぐらいの感想しか持てないでしょう。
様々なジャンルで表現できる漫画は素晴らしいのですが、需要も考えると疑問です。
こんな作品も有ではありますが、ご苦労様ですとしか言えません。


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[投稿:2025-07-12 09:14:09] [修正:2025-07-12 09:20:01]

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