「朔太」さんのページ

総レビュー数: 741レビュー(全て表示) 最終投稿: 2010年01月09日

マンガ家や漫画雑誌、編集の裏側を題材にしていること
自体に、新分野の漫画と多くの読者が驚いたはずです。
しかし、読み進めるうちに、読者の興味を繋いでいる
のは、やはり「王道バトル」なんですね。
「友情」「努力」「勝利」が少年ジャンプの共有される
価値観と聞いたことがありますが、
本作品もこの価値観を踏襲している王道マンガであり、
決して邪道マンガではないことに気づかされます。
魅力ある絶対的な存在であるライバル新妻エイジが、
最高の味を出しています。

さらに、「比較的地味な内容になる」と大場つぐみが
予言していたように、徹底したリアルさが非現実的な
ワクワク感を消し去ってしまうハンデがあるにも
関わらず、次々と読み進めたくなる魅力があります。
これは、よく観察してみると、毎号話を閉める
最終頁や最終コマは、必ずサプライズとなるセリフ、
次号展開転換への期待・布石が示されています。

この仕掛けは、プロの原作者、漫画家、編集者の
定石なのでしょう。
このように実際の編集上の工夫などは伏せながら、
漫画の編集上の裏話をストーリーの中心に
据えるのですから劇中劇のような楽しさがあります。

一つだけ注文をつけるなら、Webでシナリオの
50人の批評意見を集めてヒット作品を作るという
アイデアはやや荒唐無稽であり、さらにこの手法を
使うライバル七峰を出現させ長々と話を繋いだ
展開だけは減点部分でした。
概ねシリアスで現実的な展開でハラハラさせた
ストーリーがここで大減速でしたね。

一方、亜豆美保との何とも無邪気な恋が底流にあり、
最終話までのハッピーエンドへの予感が安心感を
与えています。
声優コンペの巻や、生ラジオ番組でのカミング
アウトの巻では、お約束ながら最高潮の場面
だったと感心しました。

ここでもキチンと最終話に向かって計算され
つくされた道筋が見えます。
マンガの限界をまた一つ超えた作品として、
我々の記憶にいつまでも残る作品だと言えます。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2020-12-22 17:51:36] [修正:2020-12-22 17:51:36] [このレビューのURL]

結論を先に言えば、素晴らしい衝撃を受けました。
描画力は相変わらず、髪型でしか人物をかき分ける
ことができない不出来さがあるのですが、
それを上回る魅力を感じました。

「ぼくらの」でも小さな超能力を持つ少年少女の登場が
ありましたが、同じような面白さを感じます。
本作品でも小さな超能力を大きく振りかざすことなく、
どんどん先読みを促してくれます。
5巻全巻を読むのを途中で止められなくなり、
あっという間に読んでしましました。

本作品の最大の魅力は、社会正義の在り方への考察を
一社高蔵に語らせるクダリです。
主人公日比野はあくまでも標準的日本人の代表者のような
ノンポリなんですね。
主人公相手に徹底的に馬鹿扱いします。
共感した一社の言葉を下記に列挙します。

・学校の勉強は、役に立たないという奴がいるけど、
根本的に間違っている。
課題を与えられた時の適応能力を見ているのだ。
学校でダメだった奴のその後の人生は破綻する確率が高い。
・バカでもテレビに出て楽しくやっていけるという
作られた幻想が世の中のバカをさらにバカにして
つけあがらせていく。
それを作っている奴らもそこまで責任を持たない。
・日本の裁判の方向性が間違っている。
計画性がある方が罪が大きくなる。
出来心で犯す無自覚な人間の方が、生かしておくと
また社会に害を与えるのに。
・人を殺してはいけない絶対的な理由なんてない。
一番の理由は、もっと利己的なものだ。
私はあなたを殺しません。
だから、あなたも私を殺さないでください、という
社会としての契約である。
それを全員が守っている間は全員が安全である。
だから、そのルールを破った人間は自分が殺されても
良いと表明したわけである。
つまり人権を侵した人間に人権は必要ない。
・人間の刑罰判定には点数制を導入すべきである。
生まれながらに持っている例えば100点という点数を
罪を犯すたびに減点していく。
ゼロになれば死刑とする。
そうすると再犯率は間違いなく低下する。
・精神衰弱や精神障害という責任能力の有無が問題になる。
責任を取る能力のない人間が社会生活を営んでいる。
そういう人間なら差別や区別をされるべきであろう。
本来は犯した罪の内容のみで量刑が語られるべきである。
・異常か正常かの二元的に語られるが、自分は正常だが
自分にもおかしなところがあると考えるべきである。
でもバカな奴ほど自分は正しくて未来永劫間違える
ことはないと考える。
・バカは大概携帯電話が大好きな傾向にあるが、
そのくせそういう奴らは数学なんてキライだの、
何の役に立つかわからないだのと言う。
彼らは科学の発展を抑制する

特に、犯罪の点数制は、作者の鬼頭さんが
「点数制、悪くないと思うんですがねえ」と
言っているぐらいに強く主張しているのです。

タイトルも良くできています。
「間違っていますか」というべきところを
「もちがっていますか」と言うことで、
一見正義のように見えることの不正確さを表現できており、
素晴らしい。

全体としては、SF仕立ての展開に社会学、倫理学を持ち込んで、
漫画とは思えない重厚な問題提議をしてくれました。
高次元の知識欲を掻き立てる面白さにすっかり魅了されました。
全力でお勧めいたします。

ナイスレビュー: 2

[投稿:2020-10-14 18:09:07] [修正:2020-10-14 18:09:07] [このレビューのURL]

10点 MONSTER

1、2巻で追う者テンマを紹介した後は、中段あたりまでは1話読み切りとしても十分に堪能できるプロローグ集にも感じます。
最後まで「ヨハン」と「Monster」を遠い記憶のような存在に置いて、テンマをはじめとして追う者の物語として毎号十分に堪能できました。連載誌の宿命として、謎は謎のまま捨て置くわけにはいかず、最後にはその正体は明かされねば読者は承知しないでしょうから、気の毒にも最後は混とんとした世界が残ってしまいました。
Monsterが生まれた過去の経緯には必ずしも意味はなく、浦沢直樹氏の本意として、人間がMonsterに生まれ変わる世界とそれに抵抗する人々との葛藤、戦いを物語にしたかった、とでも解釈致しますが、いかがでしょうか?

いずれにしても、シナリオに関係なく欧州の背景や人情話は楽しめましたし、謎のMonsterの存在に恐怖を感じさせる演出効果ならびにところどころに散りバラめられた人情噺は、まさに浦沢ワールド全開で、素晴らしい名作と言えます。

<追記>
3度目の再読です。すごいです。1巻からどんどん引き込まれます。
初期の設定が半端なく素晴らしい。双子の生い立ちが複雑すぎて、1回目では本当には理解してなかったかもです。
ああ、浦澤直樹氏は漫画家としても一流ですが、小説家としても一流になれたかもです。
生涯忘れえない作品になりました。



ナイスレビュー: 0

[投稿:2016-03-05 17:24:02] [修正:2020-10-02 17:57:51] [このレビューのURL]

10点 蟲師

日本の風土と日本人に根づいた原世界がそこにあります。
全ての人が心の底に持っている懐かしい世界です。
私は幼少期に目にした夜の闇や日暮れ時の神秘性を
いつまでも脳の底に残している気がしています。
その恐れが日本なら妖怪、欧米なら妖精などの存在を生みます。
漆原さんは、さらにこれを総称的に蟲と定義し、
時にはナガレモノという自然現象にさえ生命と意味を与えて世界を作りました。

最初に賛辞されるのは、江戸時代でも明治時代でも
なさそうな、およそ文明からは遠く、
しかしとんでもない昔でもない独特な世界観と蟲の存在でしょう。

蟲が人間に及ぼす悪さや自然の営みだけでも、
十分に絵として成立していますが、次に蟲に関わって
しまう人間の織りなす物語がセットで用意されています。
命の根源である蟲に抗っても仕方なく、共生を促します。

どこかの漫画雑誌では「勝利、努力、友情」なんて
共通語で作品を生み出させて商業的に成功していますが、
この作品は全くそのいずれの言葉も当てはまりません。
だけれども、とても気持ち良い時間を与えてくれる、
まるで美しい絵画と静かな音楽を合わせて愛でるような
思いにさせてくれました。
全体を流れる静謐で穏やかな空間と時間が3つ目に
賞賛されるべき点でしょう。
それはきっと水彩画のような薄墨のタッチと自然画の
多用がもたらしたのでしょう。

この作品に出えたことは、大変幸せに思います。
名作です。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2020-06-11 02:19:07] [修正:2020-06-11 02:19:07] [このレビューのURL]

昨日、波に乗っていたのにもう三十歳?
そんなおとなになったことを実感できない、
オトコとそれに恋するオンナの物語。
代表作「東京ラブストーリ」と同時期に、読み切り作品をシリーズ化した。
パターン化された男女恋愛といえばそうだが、柴門ワールドの原点とも
いえる作品で一見の価値有りでしょう。

<再読追記です。>
10年ぶりに再読しました。
1年に2回のペースの連載だったそうですが、珠玉の短編9作品だと思います。今読み返すと、単なる男女の恋愛話ではないです。

人が生きていく上で、本当に必要だと思えるほどに愛すれば、
嫉妬だとか束縛だとか誤解だとか失意だとか負のマインドが生まれてしまいます。
それが若い時には増幅されがちで、時に致命傷になってしまい、
男女は別れてしまいます。
そんな意味でしょうか、副題にはPeter Pans & Wendies‘ Short Stories とあります。最高の副題だと感心しています。

他にも子供が欲しい自分の気持ち以上にパートーナを
大切にすることを選択した男の話、寛大な自分と信じていた
のに裏切りには寛大ではなかったと気づく女の話、
やり直せると考えるのだがやはり諦めている男女の話、
寂しい自分を認めた瞬間に見つかる恋の話、
互いに支えられてきたことに気付かなかった兄妹の話 
と私なりの副題をつけてみました。

男女だけでなく人生のパートナーは誰にとっても大切です。
大切な人との心の機微を表現させれば、
柴門ふみは日本の第一人者でしょう。

30年前の作品ですが、現在に至る間に、この分野を
超えるものどころか、足元に迫る類似作品すら見たことがありません。


ナイスレビュー: 0

[投稿:2010-09-05 17:01:56] [修正:2019-09-21 12:14:55] [このレビューのURL]

10点 ROOKIES

ドラマ仕立ての展開は、予定調和そのものではありますが、心を打ちます。

先日、ボリビアから来た外国人女子学生が、思春期に見た
日本のTVドラマ「ルーキーズ」に深い影響を受けたと
涙ながらに語っていました。
劣等生でいじめを受けていた多感な思春期に自殺を
思いとどませるほど強い力があって、これを転機に彼女は
猛烈に日本語を勉強し、絶対に日本へ行くとの決意で
現在の自分があるということでした。
日本には弁論大会で一時的な来日ですが、母国で留学生の
椅子を勝ち取り、絶対戻ってくるということです。

日本人の漫画文化は、ドラマを輸出し、海外の人たちを
救っているのです。
思いもよらない波及効果です。

本作品は、臭い。
しかし、心が乾いている人には慈雨のような効用があります。
道が見えなくて悩める思春期の人たちには是非一読してほしいと思います。

名作だと思います。


ナイスレビュー: 0

[投稿:2019-09-12 19:16:50] [修正:2019-09-12 19:16:50] [このレビューのURL]

弘兼憲史氏の原点となる作品であり、同氏の一貫した作風がここで確立されました。
初期作品なので画力やギャグにはある程度目をつぶる必要はありますが、
シナリオ構成力、情感、人間観察力など、ドラマ脚本家としても大成
できただろうと思われます。

追記:改めて全巻を読み返しました。
弘兼氏の最高傑作ではないでしょうか。
初期の十数話は見るべきものはないのですが、或るところからは練に練られた
お話が続きます。
サスペンスとミステリーが基本ですが、ホラーあり、SFあり、世情の裏話ありです。
弘兼氏の評価を高くするのは、人情ものでしょう。
ファイル118 玄待屋の女(映画黄色いハンカチの焼き直しの匂いも強いが?)
ファイル119 夢で逢いましょう
などは弘兼氏の油の乗りきった時期と重なったのか、最高の出来栄えです。

2019年現在70歳になろうかという同氏ですが、彼に替わる次代の作家さんが
見当たらないのは残念です。
不出世の作品でしょう。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2010-11-14 10:05:25] [修正:2019-01-22 18:38:39] [このレビューのURL]

一度でも負ければ即引退、の宣言から始まる極限状態での格闘技型相撲漫画です。

播磨灘の奔放なワンマンぶりは、回を増すごとに拡大し、オーラを感じるくらいです。
セリフもその内なくなってしまうのは、喋らない王者の方がすごみがあるのですね。

一戦ごとに敵役の覚悟や本気ぶりの背景をキチンと示して戦いを盛り上げた後に
決戦となりますので、何といっても取り組みが楽しみになるわけです。
もちろん負けたら終わりなので、播磨灘が負けるわけがないのですが、
それでもワクワクドキドキの格闘技の真髄が味わえました。

相撲協会を否定する一力士の反乱としても、今では荒唐無稽ではない話ですし、
相撲自体も有り得ない勝負ではない現実味のある範囲で、これだけ楽しませてもらえました。
一生記憶に残る漫画でした。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2018-10-01 20:13:20] [修正:2018-10-01 20:13:57] [このレビューのURL]

記憶に残る最高傑作のひとつです。
主たるシナリオはなく、真面目不良高校生の青春日記です。
無口なゴリラーマンの謎が気になって、ぐんぐん引き込まれます。
周囲の不良達の価値観も無定形なんだけど、魅力的です。
主人公は一言もセリフはないため、何もかも謎だらけですが、
彼を取り巻く仲間たちのペーソスを誘う楽しくも健気な日々なんです。

最高の魅力は、繰り出すギャグなんですね。
何気ない言葉の応酬と行動は、今どきの高校生にも
大いに参考になるでしょう。
めったに付けない最高得点を差し上げましょう。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2010-11-21 23:09:15] [修正:2018-01-10 19:04:24] [このレビューのURL]

漫画が文化の一つとは誰も認めなかった時代に、白土三平の
孤独な試行錯誤がありました。
50年以上の月日が経って、サブカルチャーとしての漫画が
確立された今、同じ視線で評価を与えることは難しいです。

彼らの時代背景を考えれば、娯楽としての作品作りを
目指していたはずであり、決して高尚な歴史小説まがいの
作品を志向していたはずもないでしょう。
商業的な成功を目指していたはずであり、雑誌の廃刊を
最も恐れながらの活動であったはずです。
にもかかわらず、社会の底辺にある問題提議や深淵な
人間の営みの不可思議さ、いわば曼荼羅模様の世界感を
表現し、品格ある文学作品に仕上げています。
壮大な大陸の開拓者でありながら、先駆的な求道者を
連想させる作者に頭が下がる思いです。

数百年後の今に残る商業的絵画が人類の資産と呼ばれる
ように、カムイ伝もまた後世で同様な評価を得るように
なるように思います。


ナイスレビュー: 0

[投稿:2017-11-07 18:01:01] [修正:2017-11-07 18:01:01] [このレビューのURL]

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